闇を生きる男




「決着が着いたらな」
「決着か…」


ベルギーのフランドル地方で畜産業を営むジャッキーのもとに、精肉業者との仕事の話が舞い込む。商談の席には少年時代の友人ヂエーデリクがいた。話を進めるうち、家畜へのホルモン不正使用について捜査中の警察官が殺されるという事件が発生する。


ジャッキーと再会したヂエーデリクは、事件を捜査中の刑事を誘って冒頭のように言われる。刑事にとっては自分の性的魅力を利用するための何てこと無いセリフなんだろうけど、ヂエーデリクにとっては、自分たちの問題に「終わり」が無いことを実感させる言葉だったに違いない。そしてラスト、彼は「終わり」を見届けて…見届けることしか出来ず、その場を去る。


オープニングは何となく「ファーゴ」でブシェミがミンチにされたのを思い出してしまう場面、しかし小突いて脅して言う事を聞かせた方の男こそ、不健康にぬめり、余裕がないように見える。その通り、邦題に沿って言うなら彼が「闇を生きる男」なのだ。自室ではいつも汗をかき、ほてり、裸で、ファイティングポーズを取る。
その後はしばらく、マフィアもの、犯罪ものといった感じの場面が続く。主人公の特異なキャラクターが気になっていたら、彼が「飾り窓」を見てからの回想シーンでその「理由」が語られてゆく。


(以下「ネタバレ」あり)


主人公は「独身」を揶揄され、「使い物」にならない父親と、屈託の無さそうな母親と暮らしている。バーで女の体をじっと見るが、男がやってきていちゃつくと、気分が悪くなり逃げるように出てゆく。
セックスが出来ないから(少年の頃、医者に「射精は出来るでしょう」と言われてるから、意思でしないのかな)他の部分で「男」になろうとするのか。彼は最後、ヂエーデリクに「男は本能的に何かを守ろうとするが、俺には守るものがない」と言うけど、友人がその言葉に共感しているようには見えなかった。でも何かを失った人に対して、いや、そんなもの、とは言えない。


ウィレム・デフォーみたいな顔の女の主任刑事と、遠目には美形という感じのその部下の青年刑事、こういう顔の人たちが出てくる映画はいい。ホテルでの取調べが終わり、青年刑事が立ち上がると股間がヂエーデリクの顔の前に。最近の映画じゃ一番エロを感じた(笑)でもってその後、案の定、思った通りの場面が入る。


しかしちょこっと引っ掛かってしまうところもあり。例えばジャッキーに暴力を振るったのが「障害者」じゃなかったら?(そうしたら、彼の「責任」についても描かなくてはならなくなるよね)「想い人」のフロラが男と一緒じゃなく、ジャッキーがそいつを傷つけることがなかったら?(そうしたら、彼は全く「罪」を犯していないことになるよね)。そういう「運命」だった、と素直に飲み込めないのは、描き方が少々でこぼこしてるからだろうか。


それにしても、オナニーの途中で「みつけたぞ、攻撃しろ!」だなんて、そういう場面を見たことあるわけじゃないけど、一部の人というか男性にとって、性行為とは攻撃性の発露なんだなと思わせられた(精神性がどうとか関係なく)。また「タマ無し」が日本でも外国でも人を侮辱する言葉だというのは、そんなことだから「彼」の闇が深まるんだよなあと考えてしまった。