監獄の首領



楽しく見たけれど、筋が通っているゆえに、いや通っているのに、少々物足りなかった。あらゆる場面が私にはちょっとたるかった。「過激さ」が欲しいというんじゃなく、時間の問題。


この映画が通している「筋」とは、ハン・ソッキュ演じる「首領」(原題は単に「監獄」)イクホの言う「この世界は皆のものじゃない」を否定する物語だということ。悪いものは悪いという道理を採っているため、主人公はあくまでもキム・レウォン演じる潜入捜査官のユゴンだし、イクホとユゴンは通じ合わない。潜入捜査映画につきものの、ここで出会ったのでなければ…とでもいうような男同士の絆に感傷的に浸る楽しみは無い。


まずはユゴンの陽性がいい(好きなタイプというわけではない)。身体切断の脅しに失禁するも「何だよ恥をかかせやがって」と股を開いて乾かそうとするのみ(…に続くソッキュの入浴シーン)。もりもり食べていびきをかいて寝る。「(スープを)こんなに残しやがって」は「本心」だろう。ハン・ソッキュはいつものように演技は上手くセクシーだけど、あまりぴんとこなかった。最後の塔の上での表情の変化など、当人のせいじゃなくそういう映画なんだろうけど、ちょっと拍子抜けさせられた。


物語はユゴン(と、彼の側である警察)が自分のしたことの責任を取ることで、やはりはっきりと筋を通しているところを見せて終わる。韓国映画には珍しい警察描写だ(笑)警察は「このご時世に無理」と諦めていた幾つもの事件の煩雑な再捜査に乗り出し、ユゴンは自らの「犯罪行為」を認めて刑務所に入る。なかなかさわやかな結末だ。


作中出てくる女は二人、冒頭の一幕で始末される男のとばっちりで殺される女と、ユゴンがイクホの疑念を拭うために聞かせる受話器の向こうの母親らしき女(の声)。刑務所の中でも何でもありというんなら「女」もその一つなのかと思いきや、全く窺えなかった。最近の韓国映画にはこのようなタイプのものもままある。ジェンダーについて特に考えているわけではなさそうだが、結果的に女性を物扱いはしていないというもの。フィクションは現実を引っ張るから、私はこういうのも好きだ。