ミリオンダラー・アーム



インド初のメジャーリーガーを発掘したスポーツエージェントの実話を元に製作。面白かった。


インド全土で開催された「ミリオンダラー・アーム」で選ばれたディネシュ(マドゥル・ミッタル)とリンク(スラージ・シャルマ)は、それぞれ家族に別れを告げる。ディネシュの父親は「お前ならやれる」と抱きしめ、リンクの母親はただただ哀しそうな顔をする。JB(ジョン・ハム)は通訳兼雑用係兼コーチ見習のアミトに「彼女はどうしたんだ、大金が入ったのに」と訊ねる。「息子をよろしくと言っています」と聞いての返答は「大丈夫だよ、ロスは『楽しい』から」。
作中「fun」と何度も出てくる。この段階でJBの言う「fun」とは、そこに居さえすれば、あるいはお金と共に居れば与えられる、例えば車が渋滞せずに進むとか、パーティに出られるとか、そういう類のものだ。JBはその「fun」さえあれば自分も誰も満足すると思っている。コーチのトム(ビル・パクストン)に「楽しみも必要」と言われて彼らを連れて行くのは、自身の仕事を兼ねたパーティ。トラブルが起き、JBは苛立ち三人は萎縮する。自分と相手の間で、又は自分の内部において、「楽しみ」がちぐはぐだと物事は上手くいかない。


この映画は、我知らず養子を取った人間が真の親になるまでとでもいうような、「家族が出来るまで」の話だ。「(相手が)どんな結果を出そうともがっかりしない」という気持ちになるって、まさにそういうことだもの。最後にJBが彼らにあれと願う「fun」は、自分のじゃない、自分には分からないかもしれない、相手にとっての真の「楽しみ」だ。
JBは当初、彼らに「餌」をやり練習への送り迎えをし、トラブルが起こればテレビの視聴を禁じる。とある切っ掛けにより皆での食事や野球観戦など家族「らしい」ことをするようになるが、あくまでも「投資対象」だと口にする。意思や関係が変わるのは「少しずつ」だ。
一度目の入団テストの後、リンクがブレンダ(レイク・ベル)に宛て「僕達は失敗した」とメールしたと知ったJBは、その後に面談したチャンに「彼らは失敗した」と言われ「『僕』だ」と返す。その表明が通じたかのように、家では「インド」が待っている。この相互作用による変化にぐっとくる。


登場時間がそれほど無い人物も「リアル」で愛着が湧く。(いつもJBが出資主のチャンに会った「後」回しにされる)トムは、始めこそ無理だと一刀両断するが、実際に二人に会ってからは大抵のことを「見抜く」。初日にはまず「不平も言わず諦めもしなかった、いい選手だ」。JBの事務所の女性社員も、久々に登場した姿を見ただけで、映っていなかった間の苦労が「分かる」。
マドゥル・ミッタルとスラージ・シャルマの肉体の説得力とその撮り方もいい。いわゆる肉体美を前面に出すわけじゃないけど、投球時の背中を、肩を捉えた映像にパワーがある。ショッピングセンターの駐車場なんて場所で行われた一度目の入団テストの際、ディネシュは「土が無い」と焦る。対して二人が目を輝かせた野球場で行われた二度目のテストの際、リンクがマウンドの土を蹴る様子は、強く美しい馬のようだ。ちなみに「リンク」は左利きなので、エンドクレジットに流れる実際の二人の写真が時折「鏡合わせ」のように見えるのが魅力的だった。


「いつもポケットにショパン」の「麻子はシチューが得意です」を思い出してしまうエピソードの後(しかし最終的?には「手を使う人」に手を使わせないのが「アメリカ」ぽいと思う・笑)、「悪かった、八つ当たりして」と謝るJBに対してブレンダいわく「あなたのそういうところを見たくなかっただけ」。このセリフはいいな、いつか使いたいな、と思うと同時にそれはやばいと思い至った。「こういう言葉が当て嵌まる時」を探すなんて本末転倒だから。