ハリケーンアワー



ポール・ウォーカー追悼」の文字に、ポスターのビジュアルにはそそられないけど見ておこうと出向いたら、特に前半は、今年に入って見た中で一番といっても過言じゃないほど好みだった。変な言い方だけど、見ている間ずっと、ポール・ウォーカーがもう居ないってことを忘れてたほど面白かった。役柄も彼にぴったり。犬が可愛かったから贔屓目に見てるってのもあるかな(笑)


オープニング、台風の近付いてきた街の光景が次々と映し出される。建物や路面電車の様子に、すてきな街だなと思う。この時点でどことなく、映画の空気がいい。
何度か挿入される実際のニュース映像のうち、最初のもので、邦題の「ハリケーン」(原題は「Hours」)が2005年にニューオリンズを襲った「カトリーナ」のことだと分かる。小さな病院で妻を産室に送り出し、足を震わせながら一人待つ夫(ポール・ウォーカー)。暴風雨でガラスが割れたため避難するよう言われても、「(医師に)ここに居るよう言われたから」と目もうつろ。やがて彼に妻の死と、子どもも最低48時間は生命維持装置から動かせないことが伝えられる。
そして「停電した病院に取り残され、3分(後にもっと短くなる)に一度発電機を回さないと子どもが死んでしまう」という状況におけるスリラーが展開するわけだけど、これがうまくって、次から次へと災難が!と笑っちゃうスレスレのところを走り抜ける。


何が面白いって、私にはこの映画が、主人公が異世界でエイリアンを守り戦い抜くSF映画のように感じられたこと。人々が避難のために廊下を一方に向かって歩いて行く画が不気味で、二人が取り残された病院は見知らぬ世界のよう。停電で真っ暗な中、ぼうっと一箇所だけ明るい生命維持装置はエイリアンの寝床のよう。赤ちゃんの撮り方も、ぎりぎりで映らなかったり、ちょこっと映ったり、装置の窓からの画だったり、どこか得体が知れず、話し掛けていることを示す耳のカットさえもどこか「異様」な感じがする。これらは全て、突然我が子と二人きりになり戸惑う父親の心境を表しているようだ。
そういう目で見ると、久々に戸外に出た彼の太陽に目が眩む姿は異星の「大気」に初めて触れる時みたいだし、病院の玄関先に泊まっている救急車さえ、壊れた宇宙船みたいで楽しい(笑)


これは、父親の、生まれたばかりの我が子に対する気持ちが、「I don't know you」から「I know you」に変わるまでの物語だ。当の「you」…娘の方は、生まれたてであるばかりか装置に繋がれうんともすんとも言わず、目で見て分かる「生きている証拠」は、息をしているお腹の上下とおむつの中身くらい(おむつ替えの場面のみ、作中唯一楽しげな、ジャジーなBGMが流れるのが可笑しい)。それでも48時間後、父親はそんな境地に到るんだから不思議なものだ。私の目からすると、彼が他人とやりとりをしている前半の方が異世界ぽく、一人きりになり次第に「わけが分からなく」なるほど、世界が現実味を帯びてくるのも面白い。


印象的だったのは、冒頭、運搬が出来ず他者と一緒に床に置かれていた妻の死体について、彼が「床からちょっとでも上にしてほしい」と言うところ。ニュースの映像を見てると、欧米の方じゃ、災害時でも避難所の全員が簡易ベッドに寝てるものね。日本人の私達よりもずっと、「床に寝てる」ってことがショックなんだなと思った。