愛さえあれば



スサンネ・ビア監督の、ピアース・ブロスナン出演の、イタリアが舞台の、ロマコメという「意外な」組み合わせを楽しみにしてたもの。面白かった。


舞台は南イタリアのソレント。オープニング、クレジットのみの黒いスクリーンに虫の、鳥の、波の音、人のざわめき。それらが止み、イーダ(トリーネ・ディアホルム)とフィリップ(ピアース・ブロスナン)はまだデンマークに居る。
始まってしばらく、イーダを始め皆の瞳が異常なくらい活き活きしてると思う。どれも青い。最後に「レモン」にはやっぱり青が合うと思う。
若い二人がレモン屋敷の戸口をまたぐ場面や、イーダとフィリップがタクシーの中でやりとりする場面など、カットの繋ぎが「普通」のロマコメでは見慣れないが彼女の作品では見慣れた感じで、それが妙に「映画的」な快感を呼び起こす。


イーダの短めのタイトなワンピースにカーディガンという「普段」着、私はこの世で一番ってくらい好き、できればいつもああいう格好していたい。カトリーヌ・フロの「地上5センチの恋心」と並ぶ、「主人公の服装が現実的に好みの映画」。それに「地上5センチの恋心」の化粧品売り場の店員、本作の美容師といった類の女性が主人公の映画って好きなんだよなあ(本作の原題は「Den skaldede frisor」=坊主頭のヘアドレッサー)。最後に彼が職場にやってきて…というのも、作りは違うけど、大好きだった「ぼくの美しい人だから」を思い出す定番、これも好きなんだよなあ(笑)
話は戻って、最後のワンピースはやっぱりレモン色。あの場所に現れた彼女があまりに美しく、あの髪型にしてみたくなった(あれは「伸びた」髪なんだけど)。


「亡き妻を忘れられない仕事人間」、イギリス人のフィリップを演じるブロスナンは、おでこの老人斑?が目立つしお腹もすごいことになってるけど、まだまだかっこいい。007の頃から思ってるんだけど、体の動きが美しい。イーダの隣で舟に腰掛けてる姿、彼女を探して崖のふちに足を掛け身を乗り出す姿、彼女を追って戸口から駆け出してくる姿。最後のシーンなんて(そのせいばかりじゃないけど)息があがっちゃってるけど(笑)これらは「現実離れ」して見えるかもしれないけど、繋ぎの揺らぎ同様、私にとっては「映画的」な心地いいアクセントになっていた。
本作では、息子から電話との知らせを聞いてふと変わるのを皮切りに、表情も素晴らしかった。衣装は何だかいつも同じ、よれよれの青いシャツ。でも「レモン」を忘れられないでいるようで可笑しい。


イーダとフィリップの出会いは空港の駐車場。一応「ケガは?」と聞いた後で「とにかく出て来い」とフィリップ、泣きじゃくるイーダ。しかししばらく後には、わずかな時間にPCを広げる彼のところへにこにことやってくる。中盤、ソレントのカフェでフィリップを見つけた際にも「独りでいたいのかも」と言う娘に「そんな人いないわ」答えていそいそと寄っていく。彼は「不愉快な」相手には「独りにしてくれ」と言うが、イーダのことは常に受け入れる。そういうものなのだ。


息子が夫を殴ってしまった翌朝、二人で「水遊び」しながら「パパには何一ついいとこなんてない、なぜ結婚したの」「テーブルマナーがよかったのよ」と笑い合う場面がいい。
夫を毛嫌いする子ども達に「彼だけが悪いわけじゃない」と言い続けるイーダと、婚約者との件について「悪かったのは彼だけど、今ではどちらも悪い」と言う娘には似たところがある。彼女達は考えた末、自分で出来る範囲で「悪いこと」を止めようとする。フィリップとその息子については、まず胸毛が似てる(笑)


若い二人に比べてイーダとフィリップは「呑気」に見えるけど、それは色々なことを経てきた結果なのだと思う。「首のしこり」を気にしながらパーティに出なきゃならない、そんな年なんだから。海辺のラストシーン、「これからは『出来る限り』一緒に居たい、たとえ10分でも…」に続くフィリップの言葉が本当に優しく、二人がとても美しく、初めて身を寄せ合うシルエットに泣いてしまった。