ブローン・アパート


ロンドンのイーストエンドに暮らす「若い母親」(役名ママ/ミシェル・ウィリアムズ)は、4歳の息子を可愛がる毎日。警察の爆弾処理班に属する夫は多忙で素っ気ない。バーで出会った新聞記者のジャスパー(ユアン・マクレガー)と肉体関係を持つが、二度目の密会の際、夫と息子が爆破テロ事件に巻き込まれてしまう。



「不倫相手によって暴かれる驚愕の真実」という宣伝文句に、ジャーナリストのユアンが大活躍するサスペンスかと思ったら、全くもってミシェルの一人舞台だった。
冒頭にしつこいほど流れる、息子の息遣い。窓についた手の跡。生きている。そしてミシェルのナレーション。うちは絵に描いたような労働階級、車の番組を観て、アーセナルを応援する。ある日、金回りのいい男と出会う。彼の住まいは彼女の公団の向かいの美しい建物。「君の家、眺めはいいの?」「少なくとも窓から公団は見えないわ」という会話がいい(笑)
そして二人の「不倫」の最中に女の方の夫と息子が死亡する…というあたりで、松本清張ものみたいだなと思った(同居人は「桐野夏生」だったらしい)。しかし話はまた違うほうへ向かってゆく。


息子を亡くしたミシェルは、成り行きから幾人かと(色んな意味で)関係を持つことになるが、結局その「穴」は「息子」でしか埋まらない。後に同居人が「あれ(「息子」への依存)こそ『貧困』なのかも」と言っており、なるほどと思わされた。
「母親」にとって「男」はおそらく性的魅力があり、「男」にとって「母親」は「周りにいないタイプだから刺激的」。いわゆるセックスフレンドで、特に「恋人」「親友」というわけじゃなくても、何らかの関係を持てば、何らかの気持ちが生まれる。そういう、普通っぽい人の、普通っぽい感じが出ていたのはよかった。もっともユアンは、「魚フライなんて食べたことない」ような上流階級の男には見えなかったけど(笑・だから「君は新鮮だ」なんてセリフによる説明が必要)


通路は狭いものの私には十分と思われる公団住宅の室内に、小さく固そうなソファが置かれている。「軍人」の夫は遅い帰宅の後に両足を揃えて横になる。違う夜には妻も寝る。ミシェルとユアンの「情事」の場にもなる。ユアンが全裸になるセックスシーン、とても良かった。
二人が初めて会話を交わす際、パブで「Ooh Baby Baby」が流れていたのも、ベタだけど好きな曲だから嬉しかった。