十三人の刺客


とても面白かった。男だらけの至福の二時間超。
(リメイク元の作品は未見。帰りにツタヤに寄ったらレンタル中だった)



まず映像がきれいで楽しい。お話の方は、オリジナルに沿ってるんだろうけど、集められた12人が早々に「賭け」の時を迎える。察知した敵との駆け引き、先回りすべく山道をゆくくだりは「オズの魔法使い」のようなロードムービーの様相、このあたりが面白い。戦いが始まると、「ホームアローン」みたい…と思わず同居人に小声で耳打ちしてしまった「小細工」の数々、その後に長々続く戦闘シーンはまるで、ぐらぐら煮立つ鍋の中で崩れていく具の数々を見るよう。もう鍋、終わりにしない?と思うんだけど延々と続いて、ぐちょぐちょになっていく。


最初から最後まで、「太平の世」であること、その中で「侍」が「生の実感を求めている」ことが、役所広司はじめ多くの人物の語りで表される。その他、市川正親が役所の人となりについて部下に説明したり、山田孝之が「くだらねえ」と言いながら金を投げ付けたり、伊勢谷友介が「侍なんて」と言いながら殴りかかったり、普通ならうざくて嫌気が差しそうなものだけど、そうならず、それはそれで洗練されている。
その一方で、こまかい部分は全く描かれない。伊勢谷が「食べ物くれ」と言ってるのに、水浴の描写のみで(笑)食事シーンはないし、「小細工」を作るくだりもあっさりしてる。
また役所が敵の動きについて「70人もの集団が見つからないわけがない」というようなことを言うんだけど、山だらけの国でそんなこと、このセリフからってわけじゃないけど、「日本」が何やら観念的なものに感じられた。
全体的な印象としては、陳腐な言い方だけど「少年漫画」っぽい。生活感などはないけど「よくできてる」。三池監督の映画って、役者の演技がどうとかじゃなく、その使い方、撮り方で、こんなに面白くできるんだなあと思わせられる。


「暴君」の吾郎ちゃん、おしっこしながら登場。「マイ・プライベート・アイダホ」のリバーを思い出してしまった(笑・おしっこじゃないけど)
冒頭、吾郎ちゃんの屋敷で家臣たちが話し合う部屋が暗い。当時はそうだったんだろうなあと思わせる、ろうそくの灯りが幾つかあるだけ。ああいう世界で、権力があったら、ああいう類の「遊び」にふけるの、分かるような気がしてしまう。そもそも吾郎ちゃん演じる「暴君」の言動は理路整然としており、最後の「今日は…」以下のセリフだって、そりゃそうだろうと思わせられる。「十三人」側も敵側も同類、「太平の世」に何かに突き動かされた者たちが数日間で燃え尽きた…という風に受けとった。


山田孝之なんて全然好きなタイプじゃないけど、着物の上からでも想像できるでかい背中の肉の感触、路地でこちらに背を向けて立つ姿の色気のあること。横顔も美しい。
伊原剛志は安心のかっこよさ、弟子とのコンビがいい。登場時に座礼する際、左手を先に下ろしたのが目に付いた。たまたま先日の落語会で、「必死剣 鳥刺し」に出演した鯉昇が「相手が目上なら、刀を持つ手を先に付く」と注意されたそうで「『噺家さんだからご存知でしょうが…』と言われたけど、そんなこと知らないよ」と笑いにしてたから。まあ私なんてそれどころか知らないことだらけだけど。