トイレット


荻上監督の作品は好みじゃないけど(「めがね」なんて宗教ぽくて怖かった)、この映画はいいなと思った。「トイレ」にまつわる筋書きも面白いし、ラストシーンも、トイレに入った瞬間からこれは…と思った通りなんだけど(笑)楽しい。
食事もいきなり出てくるんじゃなく、ちょっとした経緯がある。冒頭の「スシ」が「パックのままだと不味そうに感じられる」のは、日本人ならではの感覚だよなあ。



舞台はカナダ。「引きこもり」の長男、「オタク」の次男、大学生の妹の三兄弟は、母を亡くした後、日本人の「ばーちゃん」(もたいまさこ)と同居することに。ばーちゃんは口も利かなければ食事も摂らず、トイレを使うたびに深いため息をつく。


観ながら、佐々木倫子の漫画に似てるところがあるなと思った。長男の「どうせぼくなんて…」的言動や、次男が火事に遭ったり車ぶつけたりするタイミングのしれっとした可笑しさ、それから性的なものを排除してるところ。しかし後者は少し意味が違った。
末っ子のリサは詩の授業中、フェミニンなワンピースの女生徒の発表を教師が「女らしくていいねえ」というような言葉で褒めるのを「キモい」と吐き捨てる。また美男に惚れて仲良くなるが、キスする際に胸を触られると「やめてよ」と言う。そしてパンプスをやめ、元のブーツに履き替える。
私はこれまで荻上監督の映画は「そういうもののない世界」だと思ってたけど、今作で表されるのは「そういうものを拒否する人が主役の世界」である。若者だから描かざるを得なかったのか。「そういうもののない世界」を娯楽として楽しむ感覚はよく分かるし、良いことだと思うんだけど(エロのない映画なんて楽しいのか?と言うのは「酒やギャンブルもやらず何が楽しいんだ」と言うのと同じ)、「そういうものを拒否する世界」となると話は別で、ひとときでもそういうこと忘れたいのに、却って意識するはめになる。性的なもの=悪といった感じになっちゃってるのも気になる。


もたいまさこ演じる「ばーちゃん」の全身ハイセンスなこと。「何かある」と思わずにいられないその表情から、英語分かってるんじゃないかとも想像させられる。次男の「目を見てしっかり話すんだ」というセリフに表れてるように、全体を通じてコミュニケーションについての映画。


猫の「センセー」の出番は予告編から想像してたほどじゃないけど、ちゃんとゴロゴロ言ってて印象的。私は犬派だけど、ピアノには絶対猫!ピアノの先生の家に猫がたくさん居たからだろう。
それからシンガーの足踏みミシン、昔うちにもあったから、あのペダルの重さ、ぐんぐん乗ってきちゃう感覚を思い出した。子どもの頃、調子に乗って指縫ったことある(笑)