サンバ



「『最強のふたり』の監督&主演が贈る最新作、あの笑顔が帰ってくる!」という宣伝文句と「痛快コメディ」ふうの予告編はサギのようなもの、実際はケン・ローチばりの不法移民映画だった。ただしかなり甘い。その甘さも嫌いじゃなく、最後べそべそ泣いてしまった。


オープニングは結婚式のパーティの高揚。映画の視点は、豪華なケーキをちょっとだけ突ついて済ませるカップルから、それを持って退場するスタッフに移る。彼らが厨房に戻り、さらに奥に進むと、行き止まりには、素手で皿の汚れを落とす青年達の姿。その一人がオマール・シー演じる「サンバ」だ。これは「行き止まり」に居る、弱者の物語。
予告編にも使われていた、「陽気な移民仲間のウィルソン」(タハール・ラヒム)が高層ビルのガラス拭きの最中に「俺の階」でストリップの真似ごとをする場面には、笑えるのと同時に、そのガラス一枚の向こうとこちらの行き来できないことを思う。


「あの笑顔が帰ってくる!」という文句はあながち間違いでもなく、サンバの魅力でもって話が動いていく。「一日12時間働きづめで」burnoutしたアリス(シャルロット・ゲンズブール)は、彼に性的魅力を感じた事が切っ掛けで息を吹き返す。人に好意を抱きやすい男と、彼に好意を抱いた女の話をさらりとやるのがいい。
登場人物皆が、特に性的な部分において利己的なところが好きだ。色んなことが性的なことでもって動いていく。人間は性的じゃなくたっていいけど、性的だっていい。決して(「映画的」に)若くも超美男美女でもない人々が性的に影響し合う、それは「リアル」では全然あることで、そこんとこがいい。


冒頭のシャルロットの「魂の抜けたような」顔と、いつも同じ大きなコートの中に泳ぐ少女のような体は、次第にしっかりしていくように見える。ラストシーンでは自信に満ち溢れている。一方で、パーティで靴を脱ぎ捨て裸足で踊る、いつだって周囲の何割かは呆れて見守ることになるような、そんな危なっかしさも素晴らしい。そういうの、彼女にとっては決して「難しい演技」ではないように思うけど、それが何だという感じ。
パーティで皆が夢を語り合う際、サンバは叔父との約束である「(故郷の)湖のほとりに家を建てる」ことを口に出す。自分と関係のない夢を笑顔で聞くアリス。近しくなりつつある二人の、まだ遠い部分が露わになる瞬間。映画のこういうシーンがたまらなく好きだ。


移民支援協会で働き始めたアリスが、先輩に「BBC Englishじゃ通じない、internationalじゃないと」と言われるのを始め、言葉が通じたり通じなかったりというネタが色々と時間を割いて描写されるも、外国語がさっぱりの私にはよく分からず残念だった。また協会のスタッフが「法学生か年寄(の女性)ばかり」というのは、日本のちょっとした「現場」でもよくあることだなと思った(アリスのような「キャリアウーマン」とは真逆の存在の私も、彼女のように「浮いた」ことがある)