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「ブレヒトの演劇の狙いは『感動』ではなく『思考』
彼は『暗示』を提供するのでなく、『議論』を求めた」
2007年作。まぎらわしい邦題だけど、原題は「The Savages」(サベージ家?粗野?)
ニューヨークでそれぞれ独り暮らしをする兄妹のジョン(フィリップ・シーモア・ホフマン)とウェンディ(ローラ・リニー)。あるとき、彼等を「捨てた」父親が認知症と診断され、二人は彼を施設に入れ世話することになる。
介護問題がテーマとはいえ、生々しい描写はなく、映像はファンタジック。雰囲気も温かく、主役二人の姿を観ているだけで楽しい。兄妹は戯曲に生きがいを感じており、冒頭のセリフは、大学教授であるジョンの講義の内容。
一人っ子の私は、単純に、兄弟姉妹がいるっていいなあと思いながら観た。「親の面倒」ということでなくとも、例えば作中、ウェンディが飛行機で父親を引き取りに出向き、ジョンが空港で「暖かいコート」を用意して待つ場面には、どんな事でも、人手が多ければそれだけ細かな所まで手が回るよなあと痛感させられる。また、父親によかれと「高級施設」を探すウェンディと、「そんな所は罪悪感のある家族から金をむしりとるのが目的だ」という意見のジョンが言い合う場面では、自分と近しい立場の相手から、自分と違う意見を聞くことができることを羨ましく思った。私は何でも好き勝手できるけど、頭が一つしかない。
「自由に使って」と言われても寒々しい施設内の寝室に、ウェンディは買い込んできた暖色系の小物を並べる。なんだこりゃ?と首をかしげる父親も、その夜から、彼女が置いていった照明を職員が消すのを押しとどめる。場面の意図とは違うけど、一日の終わりに明かりを消すのは、自分か、もしくは自分と通じ合った誰かの手がいいなあと思った。
二人部屋の寝室には人のよさそうな先客が居るが、兄妹は構わずドタドタ動き回り、大声で言い合う。彼等は父親と三人の時にも、父の扱いについて、本人がいないかのようにあげつらう。親子の問題は当人にしか分からないし、彼等の過去は詳しく描かれないので、そうした態度については何とも言えない。ただ、父が補聴器のダイヤルを回して静寂に逃げ込むシーンに、視力の悪い私も、コンタクトレンズや眼鏡をしないという選択でラクになることって無くはないから、同じだなあと思った。
「ビザの切れ目が縁の切れ目」だったジョンの恋人が、発つ前日にウェンディに向かって言うセリフ「自立した女ならタクシーを呼ぶところだけど、私はこういう女なの(彼に送ってもらうの)」というセンスが何となく好きだ(笑)