ブライト・スター



「たとえば湖に飛び込む、その目的は岸に辿り着くためでも泳ぐためでもない、
 感じるためなんだ」


25歳で夭折した詩人ジョン・キーツベン・ウィショー)と、彼が愛した女性ファニー(アビー・コーニシュ)の物語。ジェーン・カンピオン監督作。



始まってすぐ、アップで現れるのはファニーの操る針と糸。次から次へと画面に生地が広がる「モリエール」(感想)のオープニングを思い出した。どちらも「芸術家」の恋物語、いずれも今年観た映画の中でベスト3に入る。


19世紀初頭、ロンドン郊外の暮らし。とにかく映るもの全てがすてきで、画面を見ているだけで楽しい。姉妹の小さな寝室(ベッドに座って小さな机で手紙を書く姿がいい)、理想的な出窓、台所。素晴らしい「家」が、おもに窓を通して外の自然と調和する。日差し、雨、雪、風、花、虫の声。雨にそぼ濡れる白い洗濯物や、ガラスと薄布の間から外を見る後頭部など、印象的な画の数々。ばさっとした場面の移り変わりも、それらを引きたてている。


全篇に流れる「詩人」と「お裁縫家」の血…言葉とお洋服に加え、「詩人」の実情も少しうかがえる。「詩を習いに」訪ねてきたファニーにジョンが語る冒頭のセリフ。後に「木立の上で美しい人にキスをした」夢を「体感」してみるジョンの姿が可愛い。
「どうやって詩を作るの?」との問いに、ジョンいわく「生まれてこないなら、生まないほうがまし」。相棒ブラウンによれば「ぼくらが外を眺めてぼーっとしていても、ひらめきを待っているのだから…」それを受けてファニーの母は「いつでも食事にいらして」。詩人と普通の人とでは、会話がかみ合わないこともある(笑)
それにしても、ものを作る男はたくさんいるけど、「好きな男が書いた詩を自分でくちずさむ」って、どういう感じだろう?と想像した。状況だって色々だ、一人で、彼の前で、また彼を失って…


物語はシンプルだ。ファニーの一家(母と弟、妹)は「家賃の節約にもなる」というセリフから大層裕福ではないんだろうけど、作中では「仕事」せず、子どもたちは学校に行くわけでもなく、日がな「家」で過ごしている。そこにジョン・キーツが相棒と共にやってきて、二人は恋におちるが、ジョンが貧乏で病弱なために結婚できない…というだけのこと。ゆったりした枠の中で、愛し合う二人の姿が美しく丁寧に描かれる。


ジョンとブラウンの仕事部屋にファニーが入ってきて、まるで結婚したらこんなふうかも…というふうに黙って執筆と裁縫に向かうシーンが可笑しい。もっともブラウンが出て行くと、二人は即座にソファで体を寄せ合うんだけども。


ベン・ウィショーのもしゃもしゃの髪(ソファでファニーに頭を預けるシーンが可愛い)、常にこちらを覗き込んでいるような目、薄皮の下から血が、情熱がはじけ出してきそうな赤い唇が良い。
それから、ファニーの弟役にトーマス・サングスター…「ラブ・アクチュアリー」でリーアム・ニーソンの息子、「トリスタンとイゾルデ」(感想)でジェームズ・フランコの少年時代を演じた彼。当時はあまりの可愛さに(人の顔を覚えられない私も)一発でインプットしたものだ。今や声は低くなったけど、お尻は服の中で泳いでる。作中では母の手足となり目となり姉を見守る役で、当時のこういう家の男の子はたいへんだ(笑)