ポライト・ソサエティ


物語は誰の話かで決まるから、まだまだ「初めて」があり得る(そしてどんどん続いてがんがん増えねばならない)。道場に始まるオープニングよりずっと、リア(プリヤ・カンサラ)がどんな人間だか執拗なほど丁寧に描かれるのは、この類の主人公がこの規模の映画では「初めて」に近いからだろう。パキスタン系イギリス人でスタントウーマンを目指す、仲良しの姉と大喧嘩する、学校じゃ親友と一緒にはみ出している女の子。ネイルケアや脱毛が拷問になるなんて笑える場面も、彼女が主人公だから。

映画の終わりに流れるのはX-Ray SpexのIdentity。この映画の冒頭「自分を持っている」なんて陳腐な言葉が頭に浮かんで仕方なかったものだけど、実際それがテーマだったわけだ。その「自分」が危機に陥り、リアはそれを取り戻すため親友も巻き込んで手段を選ばず行動する。そのめちゃくちゃさが、彼女が「アジア系」「女子」であることを考えたらとても楽しい。

年長の女が若い女に「あなたと私は似ている」と告げるジャンルの映画があるけれど(好きじゃないけど『プラダを着た悪魔』など)、これもそう。その場面では分からないが、リアと、姉リーナ(リトゥ・アリヤ)の婚約者の母ラヒーラ(ニムラ・ブチャ)の「敵」は同じ家父長制であり(序盤よりリアが「医者になんかなるものか」と幾度となく口にするのが、それだって出来なかった世代があったことを示唆している)、だからこそ二人は会って一目で互いにやばいと分かるのだ。言うなればこれは、二人が交わったことで世界の歪みが表出する話なんである。

実在のスタントウーマンであるユーニス・ハサートへの手紙でリアいわく「だいたい男って何なんですか?壊してばかり、経済も自然も」。男が社会を回すことの毒を理解するのに男と付き合う必要も結婚する必要もないとはっきり言っているのが今だなと思った。またラヒーラが息子とリーナと一緒の朝食の席で生理の話を持ち出し将来の「義理の娘」を気遣ってみせ…という策略も面白い。私の家でも祖母や母が朝から生理の話を普通にしていたっけなと思い出した、別に「裏」なんてないけど!