リリー・マルレーン


ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選にて観賞。学生時代にレンタルビデオで見たけれど内容はすっかり忘れていた。彼が出ていてこそのファスビンダー映画だと思うハーク・ボーンがこんなに大きな役どころだったことも。彼演じるピアニストのタシュナーがビリー(ハンナ・シグラ)を見る、上からでも下からでもない丁度よいあの感じは稀有。曲の成功に「これでぼくらは終戦まで一般人でいられる」と言うが総統が彼女に贈った真っ白い豪奢な部屋に舞い上がる。彼もまたビリーのようなのだ。

ビリーはそんなタシュナーの腕からするりと抜けて鏡と踊る。いいね、あれやってみたい、私も大好きな自分と踊りたい。振り返るとこれは、映画の終わりに顕著に表れているように、「恋も仕事も」失った女の話に思われた。ビリーは序盤より自分を呼ぶ男…「恋」や「仕事」の元へ脇目も振らず一直線に向かっていく。その考えなしがダメだったのだろうか?ロベルト(ジャンカルロ・ジャンニーニ)に「知りたいんだ、君がどっちの味方なのか」と問われての答えは「生きてる限りあなたの味方」。しかし私とあなたの関係だけ考えていれば済むのはマイノリティでない、戦争でない中を生きる者のみ。ロベルトはユダヤ人で今は戦時だった。

ビリーが初めて『リリー・マルレーン』を披露する場面こそ、袖で電話中というので散々引き延ばし「ほかの女とやらないでね」で皆を沸かせてからの舞台演出かMVかというステージだが、その後は「だって今は戦争だから、戦争は昔からあるから」と言うビリーが歌う裏で「兵隊は死ぬ」映像ががんがん繰り出される。戦争は嫌だと思うのはやっぱり人が死ぬのを見た時でしょう?この直情的な感じがいかにもファスビンダーだと私には思われた。