母という名の女



「それは母ではなく女という名の怪物」(宣伝文句)というふうには思われなかった、私もあのくらいのことをするかもしれない(あの行動という意味ではなく、あのレベルの、と言おうか)。あるいは「同じ穴の狢」達が、新しい命の誕生に何か変わるかなと思ったものの悪い方に変わってしまったという話に思われた。


オープニングは潮の音で海辺だと分かるタイルの素敵なキッチン。でも流れる空気は全然素敵じゃない。姉妹(「Las hijas de Abril(アブリルの娘達/原題)」)が暮らすのは、アブリル(エマ・スアレス)と下の娘バレリアを「捨てた」男のものだった別荘。そこにバレリアの子の父親までが同居するようになるんだから、そりゃあ澱んだ感じにもなる。アブリルが元夫の使用人の家で室内を眺める様子に、赤子を預けるのにいいと思っただけじゃない、何らかの気持ちを想像した。


皆の荷をまとめて背負っていたのが最初に登場する上の娘クララである。印刷所を営み(バレリアの彼氏は「今日アルバイト来られる?」「1時ごろに」)、そのままの洗濯物への一瞥から分かるように家事も全て引き受けている。彼女はアブリルの勧めであるものを「出す」ことになるが、この人々の鬱屈はそんなもんじゃ全然出し切れないという話に思われた(バレリアいわく「いつになったら痩せるの?」)


アブリルの透明なポーチの中のピンクのメイクブラシには、「Mommy」のダイアンのピンクのカラビナを思い出した。後にアブリルは赤子の名前ののプレートもピンクのものを用意するが、ドランがあの母にピンクのものを持たせたのとこの映画のピンクとは意味合いが違うような気がして、私はやっぱりドランが好きだなあと思う。