43年後のアイ・ラヴ・ユー


予告から想像し得ない要素の数々が面白かった。演劇評論家のクロード(ブルース・ダーン)が、認知症を患ったかつての恋人に会うため初めて「演じる」側となる。病気のふりをすることで、愛する人に忘れられたといういわば苦痛を自身の家族に与える側に回ることになる。ダーンの演技の一番の見どころは、施設にやって来て落ち込む孫娘…それは自身の反映である…に向ける一瞬の表情だろう。それゆえ作中一番心動かされるのは、退所するクロードが交流を持った皆に「私はあなたを覚えている」と告げて回るところ。もちろんそれは永遠じゃないんだけども。

この映画にはある種の倫理への目配せが全編に漂っている。話は義理の息子の「税金による売春」問題に始まり、クロードは単に彼はくそだと非難する。施設に潜り込むのに病気のふりをするという問題、当のリリィ(カロリーヌ・シロル)の夫が健在であるという問題を、親友の大反対や施設のスタッフの「病気をバカにしてはいけません」(クロードは返していわく「おれがバカにしたか?」)、孫娘の「おばあちゃんの前の人?」などのセリフでもって意識していますよと伝えてくる。私はこのやり方、悪くないと思った。クロードと親友が酒じゃなくコーヒーを飲むのに映画が終わるのには、主人公が体験でもって倫理的に、落ち着くところに落ち着いたとでもいうような感じを受けた。

面白いと思ったのは、認知症を患っている者の結婚生活についての問題…その人が自分の結婚相手をいまだ認めているか否かという問題にも言及しているところ。実際はあんなふうにはいかない、あるいは専門家による現実的な線引きがありそうなものだけど、この映画には認知症であるリリィの意思が盛り込まれているんである。それを受けて男達が自身の行動を決め、男二人と女一人の間に優しい関係が樹立するという結末がよかった。