ルシアの祈り メスキートの木の奇跡


ラテンアメリカカリブ海グループ映画祭にて観賞。2019年メキシコ、アナ・ラウラ・カルデロン監督作品。

映画の終わりに「長いあいだ差別を受けアイデンティティのために闘い続けるヨレメ族はじめ先住民の人々に捧げる」。主人公の少女ルシアの祖父母のセリフにのみスペイン語の字幕がついていることから、その世代だけが彼らの言葉を使っている(その下の世代は聞けても話せない)ことが分かる。最後に出る文によるとメキシコ政府は彼らの言葉を禁じていたそうで、作中登場人物の一人がなぜ言葉を教えてくれなかったのかと父親に問うとお前のためだったとの答えが返ってくる。ルシアは映画の終わりのある場面で初めて自分達の言葉で「花」と言い、父親がそれに応える。

なぜ女がハープの演奏をしてはいけないのか、ルシアが周囲の大人達から得る答えは「男の仕事だから」「伝統を担うのは男だから」「楽器が女の形をしているから」と次第に馬鹿馬鹿しいものになっていく。面白いのは彼女が父が演奏を禁じる理由を「私が嫌いだから」と捉えている点で、かつて一人だけ存在した(その理由は「男が出払っていたから」という、いつものアレ)女性奏者の写真の前で祈るのも「嫌われませんように」なのである。始め奇妙に感じたけれど、これは「それ以外に合理的な理由がない」、つまりおかしいこと限りないという訴えなんだろう。

もう一つ面白いのは作中ずっとハープを弾きたがっているルシアの将来の夢が決してハープ奏者ではないこと。序盤に祖母に可愛いよとつけてもらった髪飾りの位置を直す場面にも表れているが、大切なのは自分の意思が通るか否かなのである。終盤の祭りにおいて村人達が彼女の演奏を突如受け入れるのを、「魔女」達が言うところの「今でもここにいて私達を見守ってくれている」女性奏者の魂の導きによるものとすると、これは女同士の連帯でもってその意思の実現が成し遂げられる話だと言える。