春原さんのうた


私の好みじゃないけれど、逆説的に、映画って全部同じなんだ、だから面白いんだと再確認させられた。結局映像に全てがあって、見ればこちらに入ってくる、大抵は。音響がよく、劇場を出てからもしばらく世界が違って感じられた。

カフェの客が始め耳に掛けていたマスクを結局外すのにどうしても目が行くのを始め、コロナ禍での生活が自然に取り込まれた結果、受け取る情報が増える。よりにもよって飲食や撮影のシーンが多い本作にマスクが取り込まれると、その着脱がそれらのためなのか違う意味を含むのか判断できず、正直少しストレスが溜まってしまった。

終盤、夜中に起き出して一人、フェリーの甲板で風を受けマスクを外す主人公の沙知。私達がマスクをするのは他人がいる時、しないのは一人あるいはパートナーとだけ一緒の時だから、ここでは明らかに意味あるものとして挿入されているマスクを外すという行為がパートナーを迎える儀式のように見えた。

沙知が道案内する場面で初めて流れる音楽に、オルガン…いやふいごによる音だなとぼんやり考えていたので、「風通しのよさ」がモチーフのこの映画でそのほかリコーダー、ホルンといった管楽器の音ばかり鳴るのが面白かった(ギターは鳴らない)。風というか息吹による音の感触というのがやはりある。

それにしても、「風通しのよさ」を語っているのだから理解はするけれども、常に玄関が開け放されているのを見るストレスたるや、「ラストナイト・イン・ソーホー」序盤の列車の中のヘッドフォンと同じ。危険すぎるだろう。やっぱりそこは、いわば現実が勝る。私はそういう要素のある映画は得意じゃない。