人生、ただいま修行中


ニコラ・フィリベールがフランスの看護学校の学生達を撮ったドキュメンタリー。原題は「De chaque instant」(全ての瞬間から)だそうだけど、邦題の「ただいま修行中」とは奇妙だ、仕事をする限り修行は続くものじゃないかと思いながら見始めるも、面白かった。映画の終わり、風と音のある外へとカメラが出て、息をして、「Don't Think Twice, It's All Right」へと流れてゆく。

私がしたことのないやり方での手洗いで幕を開ける第一章の舞台は学校。手洗いに注射の気泡抜きといった、基本中の基本だろうが習わなきゃできないことに始まり座学の様子も結構見られる。同じ内容を別の先生が扱う際の違いや、授業中にくっつき合ったり抱きつき合ったりといった女子の様子(日本人以外の学生は時折するんだよね、私は好き・笑)など楽しく見た。学校が舞台の映画にはあってほしい、学生不在時の静けさが織り込まれていたのも嬉しい(尤もここで監督が注目しているのは別のものだが…見れば分かる・笑)。同一学校なのに内部がまちまちなこと、設備が質素なことからは、看護業界が金銭的に豊かでないと推測される。

空のベッド(のメイキング)に始まるのがブレスのようで上手い第二章の舞台は実習の現場。指導担当者とのやりとりも挟み込まれ、どのような業界でも流れを途絶えさせないために先輩が後輩を育てるのだと分かる。面白いのは学生と患者が対峙する際に生じているはずの「心配だ」「痛い」といった心や体の「感じ」が伝わってこないこと。映画を見る者には実に「見る」ことしか許されていない、それが本作の誠実さである。ちなみにこの章に収められている実習風景は血圧を計ったり消毒をしたりといった他と比べれば「軽い」処置の様子が主だが、三章では彼らが死にも直面していたことが判明する。撮影する場や時間にかなり配慮した結果そうなったのではないかと考えた。

第三章は実習を終えての学校での面談。話しているうち学生の矜恃が見られたり、教員の特色が伝わってきたりするのがまず面白い(何て難しい仕事だろう!)。始めより日本の専門学校しかり、フランス語が母語の者ばかりじゃないよなあと思いつつ見ていたのが、ここへきてそれぞれの出自まではいかなくとも事情が窺える。アラビア語を話せる人がいないため現場で通訳を頼まれたという学生は、教員に「どうやって看護師の仕事の区切りをつけたのか(どこまでも任されてしまうおそれがあるでしょう)」と問われる。ここで一章の座学で看護師の仕事の領域について学んでいたのを思い出すというわけだ。こうした瞬間にも何とも言えず満足させられた。