新宿武蔵野館にて観賞。公開からしばらく経つけど、かなり混んでいた。
史実を元に、ヨーク公アルバート王子(コリン・ファース)が、オーストラリア出身の言語療法士ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)と共に吃音症に立ち向かい、「国王ジョージ6世」となってゆく姿を描く。
「私は王だが、組閣も課税も宣戦布告もできない」とセリフにあるように、作中では、国王があくまでも「役者」であることが強調されている(一方、長年役者を目指しているライオネルが「王の役」のオーディションに落ちてしまうのが面白い)。「役者」なのだから、効果さえあげれば、ライオネルが言うように「友達に…私だけに語りかけるように」喋ればいいのだし、映画として、ベートーヴェンの交響曲がBGMに流れたっていいのだ。
国王の周囲には、何か考えてるに決まってるティモシー・スポールによるチャーチル達がうろうろしているが、そのことには何の含みも感じられない。「正しい政治」の存在は大前提なのだ。
戴冠式のリハーサルにおいて、アルバートはライオネルに対し「Because I have a voice!」と言い、一人の人間として声をあげることに目覚める。しかしそのことにより、「役者」としてのセリフと「自分の声」との間に亀裂が生じるわけではない。何だか不思議な感じもしたけど、この映画における「speech」とはそういうものなのだ、と思った。
ライオネルいわく「生まれつき、どもる人間はいない」。彼はアルバートに向き合い、彼が吃音症となった原因を解き明かしていくが、ドラマチックな告白場面が設けられているわけではない。そのあたりに前向きな印象を受ける。
役者は皆、顔のアップが印象的。「酸いも甘いも」という感じのジェフリー・ラッシュをはじめ、アルバートの妻であるエリザベス1世を演じたヘレナ・ボナム・カーター、ライオネルの妻を演じた、ヘレン・ミレンを若くしたような女優さん、皆とても良かった。
美術や調度品も素晴らしい。「クイーン」(感想)同様、王室の生活を垣間見られるのが楽しい。「レコード」を初めて聴いてみるシーンでの、下ろした髪に寝巻きとガウン姿のコリンがかっこよすぎる。隣室から現れるヘレナの(首から下の)様子もいい。
ジョージ5世が崩御するくだりでは、あのくらいのことが(弟にとっては)「失態」になるのかとしみじみ思った。そもそも私には、映画におけるエドワード8世(ガイ・ピアース)がそれほど嫌な人間には思われず。まあ、彼の「私生活」の影響をもろに受ける当時の英国民だったら違うのかもしれないけど。
王の演説をラジオで放送するのに何人もが持ち場に付いてる様子や、大きなラジオマイク、ライオネルが使う「最新式の録音機器」など、当時のメディアのあれこれも面白かった。