ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出



バッキンガム宮殿の外観などを模して作られたという赤坂離宮を見学した後に観賞(尤も本作のロケは違うお城で行われたとのこと)
私にとっては、赤坂離宮を「見学」するのも、バッキンガム宮殿をスクリーンで見るのも、そう変わらない。自分がそこで何かをするわけじゃないから「実感」は無い。しかしスクリーンの中の「実感」は感じることが出来る。作中のバッキンガム宮殿は、国王達が住まう、また国民が王に会いたいとやって来る、「家」としても十分機能しているように見えて楽しかった。エリザベス王女の「朝帰り」時にちょうど雨戸が開けられているのもいい。



「寄り道しよう、急ぐことない」


冒頭、階下から「接見室へ来て!」と声を掛けられたエリザベス王女(サラ・ガドン)が妹のマーガレット王女(ベル・パウリー)と階段を駆け上る場面で、宮殿が彼女達の「家」であることが伝わってきて、惹き込まれた。二人がばたばた走る度に、下ろしてあるシャンデリアがびりびり震えるのがいい。マーガレットがいかにも生命力溢れる自室でいわく「こんな陰気で薄暗い館で花の命が朽ちていくなんて」。
国王ジョージ6世ルパート・エヴェレット)がスピーチの練習をし、王妃エリザベス(エミリー・ワトソン)と娘二人が意見を言う場面や、一夜明けての「男」を迎えての朝食の場面など、一見「普通」の家庭のようでもあって可笑しい。


バスでエリザベスを隣に迎えたジャック(ジャック・レイナー)は、彼女が窓の方に体を乗り出す度に鼻先をちらつく真珠のネックレスに辟易する。二人の王女がリッツ・ロンドンから「外」へ出るまでを皮切りに、このいわゆる「数珠つなぎ」のイメージが全篇に通じて在る。冒頭の宮殿での一幕を始め、エレベーターの運動や「片方もげたヒール」などの高低差(が開いたり縮まったり)、暗い路地の往来(ゼメキスの「抱きしめたい」のせいで、「一夜もの」には路地がつきものになっている・笑)、それから多種多様な乗り物(リヤカーまで!)が実にうまく使われている。
ちなみにこの映画を見ると、「一般人は何をするにもお金が掛かる」ということを改めて実感する(笑)バス代に始まり、飲食無しで、街中だけの移動で、船賃まで、しめて7ポンド幾らか。


マーガレットが「外」へ出たがるのは、「ダンス」がしたいから。一夜の最後に兵舎に辿り着き踊っていると、お目当ての曲がようやく演奏される。そこで彼女が踊る相手が姉のエリザベスだというのにぐっときた。「違うバス」に乗ったとはいえ、これはやっぱり、二人の女の子のお話だから。妹を追い掛けることに必死だったエリザベスが、この後ジャックとも踊り、作中初めて、心底楽しそうな表情を見せるのもいい。
とある出来事の後、彼女は王位継承者にふさわしい態度をとるようになる(おつきの隊長に対し、おそらく初めての態度を取ることから分かる)。この晩が「子ども」時代の最後だったが、彼女は翌朝、「大人」になってからも笑う。映画はエリザベスの、全てから解放されたような先の笑顔とは違う、穏やかな笑顔で終わる。大人になっても笑顔でいられる、むしろ大人になることでそういられるのだと言われているようで、じんとした。