31年目の夫婦げんか



ケイ(メリル・ストリープ)とアーノルド(トミー・リー・ジョーンズ)、結婚31年目の二人が住むのはネブラスカ州。映画の最初と最後、虫の音の響く閑静な住宅街の中の一軒家が映し出される。もしかしたら他にもこんな夫婦がいるのかもしれないと思う。ラストの方は、二階の部屋に明かりが付くのにほっとする(笑)


オープニング、鏡の前、薄紫の素敵なナイトドレスのメリル・ストリープ。念の入った化粧が、そういう場面(化粧の上手い主人公が頑張った)なのか「映画だから」なのか分からない。同様にその後も、彼女の「微妙」な演技のせいで、夫の前で演技している場面なのかそうでないのか分からない。否定的な意味じゃなく、映画を観ていてそういう疑問が浮かぶ瞬間って好き。メリルの「演技」然とした全て(「課題」を受け夫の体に伸ばす手の震えの、画に描いたようにわなわなしてること!)、私は好き。本作は特に彼女に合っており、素晴らしい。


アーノルドがセラピー先で「うちはおたくの他の患者達とは納税額が違う」と言うように、決して裕福ではない二人だけど、ケイの格好はいつも素敵だ。
彼女の職場は地元の衣料品店。冒頭、彼女と同僚がマネキンに服を着せながら喋る場面がいい。置いてある服も彼女の服も、何だかとても「丁度いい」。私もあと10年、20年後に着られたらいいなあと思うような感じ。彼女が二度、書店に行くのもいい。カフェやレストランの場面しかり、お店での描写が楽しい映画っていい。


アーノルドいわく「off!!」になってしまっただけの、今でも愛し合っている夫婦の話ということもあり、「リアル」じゃないかもしれないけど、こういうこともあるかも、と思う。「セックスレスの解決に臨む夫婦」という題材にせよ、カウンセラー役がスティーヴ・カレルという点にせよ、「コメディ」にだって出来るのに、真っ向勝負で挑んでいるのが面白い。終盤、「挿入」の瞬間のメリルのはっとした顔と盛り上がる音楽に笑っちゃうどころかじんとするのは、それまでの積み重ねがあるから。
カウンセリングのシーンが絶妙に重ねられていき、やがて二人は「だってお前が嫌がるから…嫌がる相手とはしたくない」「だってあなたの愛撫ってせかしてるようでイヤ」というやりとりが出来るまでになる。スティーヴ演じるフェルド博士の「性の対象になるのではなく、相手が喜ぶことをするのです」というアドバイスが効いていた。


アーノルドのような夫、私なら別れちゃうけど(だって起こした時に無言だなんて!)、好きならしょうがない、「別れる」選択肢も含め「何とか」するしかない。
気になったのは、アーノルドがいつも朝食を一人で取ってること。冒頭ケイがセラピーについて話すために隣に座ると「なんだ、また見てるだけか」、終盤、怒った彼女が夕食を彼の分だけ用意すると「俺ひとりで食べるのか?」。口には出さずとも、彼には彼の「理想」があることが分かる。私なら朝のコーヒーだけでも一緒にするけどなあ、なんて思いながら見てたけど、彼女は彼女で、あんな彼とテーブルに着いているのが苦痛なのかもしれない。もっともめでたしめでたしのラストシーンでも相変わらずの食卓だから、他がよければ一人ごはんくらい、ということか(笑)二人のキスで一瞬時が止まった後の、多幸感あふれるエンドクレジットがよかった。


ワンシーンのみの出演だけど、この人すてきだな、知らない役者さんだな、と思ってたの、エリザベス・シューだった!しばらく見てないから分からなかった。