はじまりはヒップホップ




「君のクルーには100歳のメンバーがいるんだろう?」
「100歳はいないの、最高齢は96歳なの」


オープニング、何の音だっけ、懐かしいと思っていたら、一人の高齢の女性が布でピアノの鍵盤を拭いている。それから腰掛けて、流麗なシューマンを披露してくれる。
「平均年齢83歳の『ヒップ・オペレーション・クルー』がラスベガスで開催されるヒップホップダンスの世界大会に出場するまでを追ったドキュメンタリー」は、冒頭から「ヒップホップの音楽はあまり好きじゃない」と語る面々、「ヒップホップは専門じゃないから本やYoutubeで勉強してる」と述べるマネージャー兼振付師のビリー、彼女に電話口で「その手の話は少なくないから、老人が踊っているという以上のものが欲しい」と返答する大会関係者等、予告編からは分からなかったちょっと面白い要素がいっぱいだ。


「祖母が生きる砦だったから、お年寄りが好き」と言うビリーは、メンバーにダンスを教えはするが、いわゆる「先生」ではない。ラスベガス行きの飛行機の予約の期限が迫るもスポンサーが見つからないことに悩む彼女が、皆の場である市民ホール(ふとケン・ローチの「ジミー、野を駆ける伝説」を見返したくなる)で膝を抱えて相談すると皆が意見を口にする様子は、まさに「交流」としか言い様が無い。
またダンスアカデミーのリーダーが、大会出場前のメンバーを「島からアメリカを揺らしに来た」と煽るが、確かに本作のテーマの一つは「ニュージーランドのワイヘキ島」である。「島に移り住んで40年以上経った」という冒頭のカーラによれば(彼女が移住したのは今の私より年長の時である)、この島は「200人の住民皆が知り合いだったけど、大勢が私を招いてくれた」「ここでは人の目を気にせずいられる」。その言葉を、後半になって思い出す。


ビリーは高齢者のグループであることを活動の売りにし、メンバーの幾人かは自身の活動により世の皆に何かを「伝えたい」と語る。何かにつけ「若者も老人も無い」というのも真実ならば、老人がやることに意義があるというのも一理ある。リブート版「ゴーストバスターズ」が「ガールパワー」を打ち出すのにも似ている。「男も女も無い」というのも真実ならば、女を主人公にすることに意義もあるんである。