二つの祖国で 日系陸軍情報部



すずきじゅんいち監督による太平洋戦争下の日系人についてのドキュメンタリーシリーズ、「東洋宮武が覗いた時代」「442隊・アメリカ史上最強の陸軍」に続く三部作の完結編。本作で取り上げられるのは、主に日系人二世で構成されていた陸軍情報部(Military Intelligence Service=MIS)の元メンバーたちの証言。
差別されていたため「忠誠心を示すには銃を持つしかないと思い、情報部に入るのはイヤだとねばった」なんて言葉、今聞くと、やるせないと同時に怖くも感じる。冒頭にちらっと出てくる収容所のくだりなども含め、背景の知識として「442隊」だけでも観ておいてよかったと思った。


映画はジェイク・シマブクロとタムリン・トミタという有名人の言葉に始まる。導入としてキャッチーなだけじゃなく、その語りと表情には、今なお続く「戦争」を感じることができる。
その後、パンケーキの朝食を摂り式典に出掛ける夫婦の姿が映し出される。うちらみたいな顔の老人が、あんなもの食べて英語喋ってる、なんてと言うとほんとに馬鹿みたいだけど、こういう感覚だって、作中でも言われる「同じ顔、同じ血」という意識の一部だ。同時に「差別」に転じる恐れもあるけど。


語られるのは、狭義には開戦の少し前から終戦の少し後まで。MISの元メンバーの数々の証言と共に、それに沿った内容の写真や映像、現在の彼らの暮らしぶりなどを交えて時代順に進行する。彼らの「顔」も見応えあるけど、当時の写真や映像に目が釘付けで、同時に流れる言葉を聞いたり読んだりするのが追いつかない。よくあんな記録が残っているな、と思わせられるものばかり。
MISの主な仕事は書類の翻訳や捕虜の尋問、日本語の放送やビラにより降参を促す作戦なども行っていたそう。しかし戦地に居ることに変わりは無く、その目に映るのは人間が殺される瞬間、殺された直後。日本兵に撃たれて「弾がヘルメットの端に当たって、中をぐるぐる回った、腹が立ったよ、そのヘルメットじゃお米も炊いてたんだから」という話の後に映し出される、ヘルメットで洗濯や洗髪をする兵士たちの写真、なんてのも印象的だった。


開戦前から諜報部員養成のための学校を設立していたアメリカ軍とは対照的に、日本軍は「スパイ活動」について攻防共に全く重きを置いていなかったんだそう。作中の専門家によれば、それが(日本人にとって)「汚れ仕事」だったから…ということだけど、もう少し詳しく聞きたかった。それだけじゃ納得できない。
ともあれ日本軍は、文書に暗号も使わなければ、兵士が日記を付けるのも禁じていなかったため、MISにより、拾った日記から士気を量られ、あげくに同じく拾われた全将校のリスト(!)と給与明細(に押された上司の印鑑)から部隊の動きも読まれていたという。
また日本兵は捕まったら自殺するよう命じられていたばかりで、「捕虜になった時」の教育を受けていなかった。よってMISは捕虜に「優しく」接することで、事態を上手く運んだ。タバコや日本食、「演歌」などで心を開かせ、「母親には国を裏切ったことは秘密にしておく」と言うと皆喋ったそう。


それにしても、「彼らの働きで戦争が二年は縮まった」なんて言葉には、そりゃそうなんだろうけど、どうしても釈然としないものを感じてしまう。それはつまるところ、人間が「使われる」ことに対する反感なんだろう。