ホビット 思いがけない冒険



バルト9にて2D字幕版を観賞。原作は未読、先に映画化されている「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズも観たこと無いけど、気にならなかった、というか、自分が何を知らないかを知らないことが気にならなかった。


3部作の一本が3時間という長さなのに、始まっていきなり「前提」の物語があるのか!と気が遠くなりかけたけど、振り返ってみると確かにここに置くしかない。このパートはまさに、お話を「そのまま」映像にしたという感じなので、原作を知っている、思い入れがあるほど面白いんじゃないかな。
作中様々なことが「語られる」。「竜を見たら、次の瞬間には黒漕げ」「オークが旅人を襲ったら、一瞬後にはまっさら」なんて、ほんとに見たのかよ〜と突っ込まずにはいられなかった。でも、いかにも「物語」めいた「物語」の中の語りは、そう妙に映らないものだ。同様に、例えばドワーフの一人が「トーリン王子がオークを嫌う理由」を語る時、その「映像」は一体何なのか、語り手の、あるいは聴き手の脳裏にあるものなのか、それとも「映画の神様」が提供してくれるものなのか、ということも、こうした物語の中ではそう気にならない。


映画は「ホビット庄」の、ビルボ・バギンズの家に始まる。ファンタジーの苦手な私が本作を観に行ったのは、ドラマ「シャーロック」でマーティン・フリーマンに慣らされたから。本作で彼が演じるビルボの、「平穏」な暮らしを愛しているが「冒険好き」の血が流れてる、なんて性分は「シャーロック」のワトソンに通じるところがある。それを引き出してくれる者との出会い、あるいは再会から話が始まるところも。
マーティンの表情や演技はやや大仰なコメディ調で、全編がそれに沿った雰囲気になっている。私にはいまいちしっくりこない部分もあって、例えばフィーリとキーリが「馬を見張ってた」と答える場面とか、二人の演技は明らかにコメディなんだけど、バランスを欠いているようで、ちょっとむずむずしてしまった。


ケイト・ブランシェットによるエルフの「奥方」は、ただ「居る」だけだったけど、一度きりの顔のアップがとてもよかった(この表情がガンダルフの「お変わりなく…」に対するものだというのが、ぴんとこないんだけども・笑)。その場面のみ、マチュー・アマルリックに見えた。「抗えない」ってことを人の顔にするとああなるんだな、マチューやティルダ様みたいな。
この場面に限らず、登場人物の「顔」がとても印象的。なかでもビルボは、「主人公」でありながら本作では特に「活躍」するわけではないので、事あるごとに挿入される表情のアップで、胸中がこちらに伝わるようになっている。はじめは眉間にしわを寄せた「怪訝そう」なものばかりなのが、次第に解放されていく。そりゃそうだよね、ハンカチ取りに引き返そうとしてたのが、鼻水まみれでも平気になっちゃうんだから(笑)初めて剣を振り下ろそうとする場面では「別人」のようだった(もっともあの場面の「効果」のせいもあるけど)。


楽しかったのはまず、ドワーフがメインだから「小さいおじさん」がたくさん出てくるってこと。トーリン王子のような容姿とキャラクターの男が、仲間以外との場面では常に相手を「見上げ」てる、というのがたまらなくいい。
岩の中に隠れる場面、切り立った崖、と思いきや巨大男の体にへばりついて進む場面など、小ささが際立つ画があるのもいい。私は3D映画の際、ジオラマを見ているような感覚に捉われることがあるんだけど、本作も3Dを選択していたらそうだったのかな?雄大な景色やアクションなんてものより、「小さいおじさん」人形の方が魅力的だ(笑)


でもって一番の見どころは、イアン・マッケラン演じるガンダルフ。原作は知らないけど、魔法使いってああいうものなんだな。勿論「魔法使い」でも人?により様々で、ガンダルフには揺らぎというか遊びめいた魅力がある。
久々に会ったビルボとのやりとり、「雨は降り終わるまで降ったらやむ」などの考え方がまず素敵だし、「こんな身なりで…」と謝ると「いつものことではないですか」と言われちゃう、汚れた爪の肉体派。アクションシーンはそりゃあ全部スタントだろうけど(あの衣装のおかげで顔も体も見えないから助かるよね、と思いながら見てた・笑)、最後の大鷲に一人だけ自分から飛び降りるところなんてしびれてしまった。仲間(サルマン/クリストファー・リー大爺)の話を聞き流す、力のある者(ガラドリエルケイト・ブランシェット)には助けを借りる、といった柔軟さ?も好きだ。トーリン王子との言い合いの後「一人になる」と言って姿を消したり、ドワーフたちに置いて行かれたり、こちらには分からない空白があるのもいい。


これだけ書いておいて何だけど、私がこの手の(これが「元祖」だそうだからこの言い方でもいいかな)ファンタジーが苦手な理由は、「一族」と「王」が出てきて、しかもその「族」ごとに「善悪」が決まってるってこと。これにはどうしても馴染めない。映画を観た印象では、ホビットの食卓はあんなに豊かで、エルフは野菜ばかり食べてて、対してトロールはバカで捕まえたもの焼いて食べるくらいしか出来なくて「悪者」って、そりゃないだろう(笑)ゴブリンの容姿の「病気」ぽさもひどいと思う。