イップ・マン 誕生



公開二日目、新宿武蔵野館にて観賞。一番大きなスクリーンは同日公開の「青い塩」に取られてた。ドニーさんが若作りして出てたら、ガンホに負けないのに!と思う(笑)
前二作、とくに「イップ・マン 葉問」の衝撃的な面白さとは比べ物にならないけど、楽しく観た。若きイップ・マンを演じたデニス・トーはしゅっとしてて、まさに葉問の時のドニーの昔の姿という感じ。始めは「ドニーさんの若い時なんだ!」と自分に言い聞かせながら見てたけど、そのうちそんなエクスキューズ、いらなくなった。


冒頭の少年時代はそう面白くない。兄の見る悪夢、宗師のサモハンと先輩(一番弟子)のユン・ピョウの手合わせ、その際のサモハンの言葉が伏線になってるな、と思うくらい。
成長したイップ・マン(ここからデニス・トー)が香港に渡るあたりからわくわくさせられる(留学の理由は説明されないけど、たんに父親が裕福だから?)。イギリス人に「中国のブタ」「アジアの病人」とののしられ叩きのめすくだりにおっやっぱりこれか〜と思うも、「45秒」で決着を付け相手を気遣い、さわやかに終わる。
前二作はとにかく日本悪!イギリス悪!中国人と詠春拳の誇りを!というのでぐいぐい引っ張ってたけど、本作はそうシンプルじゃないから、頭を空っぽにして見ることはできない。でも、デニス・トーの青い演技も含め、達人もまだナイーヴだった青年期を描くには合ってるなと思った。主にユン・ピョウが担う、ごくごくあっさりしたコメディ風味もいい。


武館で共に育つうち、妹弟子のメイワイはマンに恋心を抱くがマンは気付かず、兄のティンチー(ルイス・ファン)が彼女に思いを寄せる。同居人も笑ってた「古風でベタな」ロマンス描写に、私はほろっとしてしまった。「処刑剣」(感想)の恋愛部分も好きだから、ああいうのが性に合ってるのかな(笑)
マンと後の妻チャンとの出会いの場面では、クリスタル・ホアン演じる彼女のあまりのお姉様ぶりにびっくりしたけど、次第に違和感は消える。明るく健気に好きな人を思い続ける様子がいい。洋装ミックスされた格好もとてもすてきだった。
私の一番のお気に入りは、皆で揃って「ノスフェラトゥ」を観る場面。出てきた男の子たちが「吸血鬼ごっこ」をする。チャンが親にあてがわれた男に「これがいい!」と言い張るのは、デートをダメにするつもりだったのか、ほんとに見たかったのか、どっちだろう(笑)映画に蓄音機に機関車など、前二作とは異なりまだまだ「俗」の中で育ってる、青少年期ならではの時代風俗描写が楽しい。


マンの実の息子、イップ・チュンも出演。登場時「映画」から浮いてるので、これは本人がらみだな、「犬神家の一族」の横溝正史的なゲスト出演かなと思いきや、全然達人ですごい!もっとも初対面での手合わせは、受けるデニス・トーもかなり大変そうだったけど(笑)特訓シーンは短いながらも、「水の入った桶」「涙目の弟子とくわえ煙草の師匠」などのお約束が楽しい。「同門と対戦する時に手加減するな」というセリフ、実の息子が言うだけに大事なことなんだなと思う。
最後の戦い×2は、ドニー版の貫録にはやはり敵わないけど、棒を持っての登場シーンはかっこいいし、さらに坂本龍一みたいなラスボスとの戦いでは、おなじみ「白い粉」に「感じろ!」の教えが嬉しかった。


デニス・トーが前二作にも出演してたの、知らなかった。「葉問」ではサモハンの弟子の一人だったんだな。魚市場の場面で結構目立ってる、グレーの帽子。「誕生」後に見ると「イップマンが二人!」と楽しい(馬鹿な感想・笑)