本日公休


母アールイ(ルー・シャオフェン)の不在の理由を求めて元夫チュアン(フー・モンボー)の整備工場へ出向いた次女リン(ファン・ジーヨウ)が、彼が車の牽引を頼まれ同行できなくなったと聞いて言うことには「あなたは優先順位をつけない、何が重要事項か分かっていない」。困っている幼馴染に家の頭金を渡してしまったというかつての彼の行為がその根にある。この映画が描いているのは厳しい現代を生きる若者には優先しなきゃならない重要なもの(=身内)以外に心を砕く余裕がないという悲しみだ。お父さんに怒られるでしょ、長男らしくしなさいと彼女のために切らずにおいた髪を切りに連れてこられる少年の涙は初めてその厳しさに触れたしるしである。

アールイの理髪店の常連客が「『先生』のところへ行こうか、好物のあれ(鶏料理の名前を失念)を市場で買って…」。そのような時間とお金の余裕は、この映画を見る限り年配の者しか持ち合わせていない。アールイが長年髪を切ってきた「先生」の家族は「理容師さん」、道中のバイクの若者も「理髪店のおばさん」と彼女を呼ぶ、そういう間柄の関係は厳しい時代には失われていく。アールイもそのことを薄々分かっているのが、たまに訪れてあれこれ意見や無心をする子ども達と話すのに何かしながらの手元ばかりを見て目を合わせないのに表れているような気がした。

娘二人は母と同じような職に就いている。アールイは「人には似合う髪型というものがある」と信念でもって散髪することで常連客を逃さずにいるが、客に意見するリンは、言われるがままにカットし自分の考えは表に出さず褒めちぎる他の美容師(リン・ボーホン)に客を奪われてしまう。同じようではやっていけない。だから彼女は母と異なる生き方をするようになり、母と同じ価値観のチュアンに惹かれて一緒になるも自身の変化を受け入れられず破綻するのである。面白いのは映画の終わりのリンが計画通り1000円カットのQBハウスの経営に乗り出しそれなりにうまくいっている(例によって気になる男性も現れる)こと。客があれこれ言わない店なら腕を振るえるということか。その人にはその人に合ったものがその時代ごとにある、という話なんだろうか。