バティモン5 望まれざる者


「携帯電話を照明として使う」映画を初めて見た時のことをいまだに覚えているけれど、ライト機能を印象的に使ったこの映画の冒頭も長く忘れないだろう。エレベータ―が故障したままの団地、アビー(アンタ・ディアウ)言うところの「10階建てのスラム」において、祖母の葬式の後に男達が棺桶を階段で下ろす。狭く危険な暗がりを照らすためのライトは「死んで尚えらい目に遭う」者への追悼の灯だった。団地の高さの厄介さは終盤の強制退去のくだりでの、「閉じ込められたと思ったら追い出される」、すなわち行政の怠慢に押し潰された人々が、冷蔵庫などの家財から車椅子に乗せた家族までを階段で、やがては布団や椅子を窓から紐で下ろす、あるいは投げ落とす場面の圧巻に繋がる。

息の上がった郵便職員に手渡された書留の内容に憤ったアビーは市長室へ押しかけるも市長代理のピエール(アレクシス・マネンティ)に怒鳴り返され「怒っている人を排除するのに警察を使うのか」と更に怒りを露わにするが、本作には警察がまさにお上の手足だという描写が多々見られる。翌日彼女に出頭するようやはり息を切らせて伝えに来るのも警察なら、若者に対する外出禁止令(「抑圧ではなく守るため」とはこういう立場の者は誰しも同じことを言うものだ)への抵抗で「大人と一緒なら違法じゃない」と若者と「散歩」しようとする彼女に突っ立ったままの市長の言葉を伝えるのもそうだった。勿論排除の際に子どものおもちゃを踏み潰すのも。

妻ナタリー(オレリア・プティ)の「家では政治の話はしないで、けんかしたくないから」に「分かった」とピエール。その後に出る試合の話に、こんな時に話題があるのかと思う。一方でアビーと友人男性のブラズは外出禁止令に対するデモに加わるか否かで揉め、時間を経た後には頼り合うが、家さえ取られた最後には怒りの発露の仕方によって袂を分かつことになる。彼らには政治から逃れられる場などない。「10年前から相談しているのに相手にされず」仕方なく団地内で食堂を営み火事を出してしまう向かいのおじさんを始め無能で傲慢な行政に対する鬱憤、とりわけ男性のそれは爆発寸前になっている(現実には「爆発」しているのではないか)。映画は市長選へのアビーの出馬を希望として残す。応援する友人が壁一面に描いた彼女の顔が心に残った。