そんなの気にしない


マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞、2021年エマニュエル・マール、ジュリー・ルクストル脚本監督作品。格安航空会社の客室乗務員の仕事の、映画であまり見ることのない部分も詳細に見せることで、その仕事そのものじゃなく仕事というもの、あるいは社会の理不尽を描いている作品。

30分程見たところでアデル・エグザルホプロス演じる主人公が自分の名を口にし、私達はそこで初めて彼女の名前がカサンドラだと知る。ジュニアスタッフとしての契約が切れたら解雇かパーサーへの昇格しか選択肢がないと告げられた彼女は後者を選択し、その時から名前を持つ存在となるが、上司いわくの「成長の機会」とは「自分の感情、過去や未来を全て消し去った今だけの存在」になることだった。自身の心に従って行動したカサンドラは同僚の評価を主観的に行ったりマニュアルにない接客をしたりしたという理由で移動を命じられ、数年ぶりに実家へ帰る。

実家での場面の数々から、カサンドラは家族に起きたある悲劇の責任を感じ逃げるように家を出たのだと分かる。「なるべく飛びたい」と飛行に飛行を重ねていたのは悲しみから遠く離れるためだったのだとも。仲間とのひとときを経て父や妹の(いわゆる「普通の人々」の)仕事ぶりにも触れた彼女は心を決め、リキッドファンデーションを厚く塗りこめてドバイの自家用ジェット会社の採用面接に臨む。それまで以上に自身を消すことが求められる職にスムーズに受かった彼女は映画の終わり、ドバイ・モールで光のショーを見るのだった。作中このラストシーンのみ現実と重なる「コロナ禍」の実際が収められており、撮影の都合なのかもしれないけれど、私には、このような女性が今どこかに生きているというメッセージのように思われた。