ブラック・アジェンダ 隠された真相/ヤラ!ヤラ!

特集上映「サム・フリークス Vol.22」にて、チラシにあった通りまさに「ケン・ローチ×ルーカス・ムーディソン 夢の2本立て!」を観賞。


▼『ブラック・アジェンダ 隠された真相』(1990年イギリス、ケン・ローチ監督)は、80年代に検閲による妨害を受け続け妥協しつつテレビコマーシャルを手掛けていたケン・ローチにとってのいわば復活第一作と読んでいる。彼にしては特異なユーモア皆無のハードな作品だけど、例えば冒頭二人の男が走ってくる、一人の男が逃げるなんて画面からしてまさにローチの映画。彼いわくの「右翼的な撮り方」じゃないからだろう。ロンドン警視庁から派遣された捜査官のケリガン(本作の題材となった北アイルランドでの調査を行ったジョン・ストーカーがモデル/ブライアン・コックス)が「お高く止まりやがって」と激昂する場面があるが、そうした人々…Shoot-to-kill方針を貫く北アイルランド警察や「官邸を守るのが仕事」の英国の政治家達までが出てきて饒舌に語るのも珍しい。見ている私達はさあそれぞれの言い分は聞かせた、どこにつくのか?と激しく迫られるわけだ。

テリー・ウッズが歌う共和党パブで、調査団の一員としてアメリカからやって来たジェスナー(フランシス・マクドーマンド)とケリガンは「英国にアメリカや日本を支配する権利がないようにアイルランドに対する権利だってない/植民地は自由のために闘わねばならない」と聞かされる(この前段はウクライナからの難民は大いに取り上げるのに他国のそうした人々のことは…という問題を思い起こさせる)。彼らにとってジェスナーに情報を持ちかけてきた女性が逮捕されたのは「よくあること」、その彼女によればIRAの一員だった夫のしていたことは「土地のならずものを懲らしめていた」となるのだった。映画はジェスナーがある陰謀の証拠となるカセットテープのコピーを手に一人空港の公衆電話に向かうところで終わるが、彼女の「英国の諜報部が人を殺したのに黙ってるつもり?」とのセリフと最後に出る「英国の法律には二種類ある、一つは秘密警察用…」との元MI5の諜報員の言葉からは物語を大きく超えた映画そのものや世界への問いかけが感じられる。


▼『ヤラ!ヤラ!』(2000年スウェーデン、ジョセフ・ファレス監督、ルーカス・ムーディソン製作総指揮)はスウェーデンに暮らすレバノン系移民の物語。主人公ロロ(ファレス・ファレス)と仲間が犬の飼い主が掃除人に任せればいいやと放っていくうんこをまさにその掃除人として始末しているのに始まる。彼らは車を持たず自転車で移動する。タイトルのJalla!とはアラビア語で「急げ!」との意味だそうで、作中では実家の窓から父がロロを呼びつける時や終盤に彼が恋人のリサ(ツヴァ・ノヴォトニー)にある場所へ行こうと言う時に使われる、口調は随分違うけれども。

ロロの実家にて、同じくレバノン系のヤスミン(シンガーソングライターのラレー)の兄とロロの父が初対面の二人の結婚について話している(「彼(ロロ)は車を持っていないのか」「わたしがそのうち買ってやるから大丈夫」)後に当のヤスミンの顔のアップが挿入されて分かることに、この軽快で楽しい映画が描いているのは強制結婚への反抗である。シャキーラもやって話題になったザガリートを映画で見る時は大抵ポジティブな場面だけど、こういう文脈で見るのも必要だと思う。親の決めた結婚相手と、最初は嫌々ながら結局めでたしめでたしなどというんじゃなく、騙してやろうと決めた最初から最後まで当事者が意思を貫くのがよい。ただ、同様に「愛がなければ」に基づいているのであろうロロの友人モンスの勃起障害の件は、今見ると「男性がなかなか病院へ行かないこと」の方が問題に思われてしまった。