ブートレッガー 密売人


マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのオンライン上映にて観賞、2021年キャロライン・モネ脚本監督作品。国が同化・支配政策の一端として先住民に敷いた禁酒法とそれゆえ横行する密輸入につき、出て行き戻ったマニ(デヴァリー・ジェイコブス)が「勝っても負けても知識があれば必ず前進できる、お前は一人じゃない」との祖父の言葉通り、50年前の首長の言葉からも学んで変化を起こす。モントリオールの法学生として登場する冒頭とラストシーンとの顔つきの違うこと、振り返ると始めは「都会」に混じるため仮装していたように思われる。

マニと正反対の、いや彼女の「先住民の母の言葉(アルゴンキン語)を覚えず、彼女が出て行った後は娘とオタワに越した」父親を反転させたキャラクターが白人女性のローラ(ブリジット・プパール)。ある理由でマニを憎む先住民の男に惚れ、酒の密売を行うという形で圧し潰されたかの地に順応しているがために前に進めない。彼女が車で居留地を出て酒を仕入れる場面で至極簡単にビールを一杯飲む場面からは禁酒法の、その後の男の嫌がらせ(「(先住民の男のために)首輪でも買ったのか」)からは差別の異様さが伝わってくる。

主演のデヴァリー・ジェイコブスは先住民の役者、映画祭の紹介ページによると現地の人も多く出演。鹿の肉に始まる食生活や煙草などの嗜好品、氷上のボウリングや花火といった若者達の遊びなど土地の文化の描写が楽しい。また映画の始めと終わりは対応しており、主人公がいわば、俗な言い方をすれば「落とし前をつける」物語と見れば、形だけなら男の話として見てきたものである。ごく普通の女達、のらりくらりと変化を拒み権力を維持するのも女(マニの叔母)、そのあたりも見ていて気持ちよかった。