Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック


「うちらはこんなに頑張ってるんだから海に行ったっていいはず」。17歳の女子二人、アンジェラ(マイア・ミッチェル)とジェシー(カミラ・モローネ)が何を頑張っているのかというと、テキサスの寂れた町の一軒家、親はおらずダイナーの仕事のシフトを一回失っただけで立ち行かなくなるような暮らし。冷房や洗濯機は外で拝借、どころか水の確保すら危うい。「18になったら養子にしてよ、引っ越せるから」がジョークに聞こえない(尤もこのセリフを日本に住む私が聞くと、差別ゆえ養子縁組という形で親族関係を結ぶことを選択するケースに思いが至る)。

終盤の、妹と兄ダスティン(ジョエル・アレン)がたまたま…というのは面白い展開であると同時にクソの世界はクソだけで回っており外からの助けなんてないということを示唆してもいる。クビになったばかりの彼女達はホームレスの男性に1ドル渡すのに「外」の言うことときたら「お前らが盗み食いしたら損失補填で値段が上がる」。サンドイッチ屋で閉じ込められた辺りでああこれはと予想できることに、二人はそんな「外」から僅かな奪取を成し遂げてとうとう海に行くのだった。

冒頭二人が兄のPCの動画のgolden showerについて話したあと予約するつもりのホテルにつき「プールも浴槽も、それから海もある」と言うのにはそれ、どこでもおしっこできるじゃん!と思ってしまった(実際にするかどうかはともかく)。それは彼女達が「悲しい」という「男女のポルノ」のそれとは異なる自分のための排泄、あるいは「外」にちょこっと浴びせかけることのできるクソのおすそわけとも言える。しかし別のところで盛大にぶっ放すにはまだまだ辛抱が必要なのだった。

私としてはこの映画は大好きなドラマ『デリー・ガールズ』とネタがちょくちょく、舞台も何もかもが違うのに被っていたんだけども、あちらは排泄を我慢するのもドラッグ入りのお菓子を食べるのも「うちら」じゃない(正確にはうちらの仲間ではあるけど、ひねりがある)。こちらの二人はあの体に色んなものを背負わされすぎているようで見ていて辛かった。こんなにもしんどい状況では何かと引き換えじゃなきゃ「何でもない」とは言えないということかもしれない。

兄の友人ブランドン(カイル・ムーニー)にレジから金を取らせようとすると胸を触らせるよう言われ、触られる…というところに兄達が、という映画の作りにも表れているように、現実では少しでも立場の強い者が下の者を踏みつけているのに、本作における世界は極めて優しく「内」では人がクソなことをしないよう設計されている。そのことについてはのうのうと育った私は何も言う立場にない。ただ劇場で大きな笑い声をあげている客が怖かった。