君だけが知らない


病院で目覚めたスジン(ソ・イェジ)を「夫」のジフン(キム・ガンウ)が車に乗せてゆく道のりが荒涼とした何かの中に潜っていくように見えたものだけど、着いた先は開発途中らしき荒地の中に建つ新しいアパート。やがてそこはいわば記憶の塔となる。「知らない」とは地に足がついていないような不安なものなので記憶を失った彼女はそこを歩き回るが、その外にいる信頼できる人々を演じるのが韓ドラ馴染みのヨム・ヘランやペ・ユラムといった地に足のついていなかったことのない面々なので(そういう役を血肉にすることのできる面々と言った方がいいかな)温かい気持ちで見ることができた。

(以下「ネタバレ」あり)

見ながらふと、ハ・ジョンウ演じる主人公が子どもらを傷つける大人達の責を一手に背負う「クローゼット」を思い出した。こちらでは一人の女に暴力を振るう男達の責をキム・ガンウ演じるオッパが全て引き受けているわけだ。しかし第一にそれは主人公がするからこそ描く意味があるのであって、その人物が主人公を守って死ぬだなんて犠牲が過ぎる。「お前は悪くない」がああいう文脈で使われるのにも違和感を覚える。第二に片方が記憶を失っているとはいえ大人同士の関係において、お前は何も知らなくていい、とにかく自分に任せておけという態度をよきものとして描く…「すべて君のためなんだ」というのは本当だったんだ、という物語は受け入れ難い。

ひとつ、打ち寄せる波に向かって進もうとしても進めず浮くことにする、独特な海の撮り方が心に残った。