Listen


True Colors Film Festivalのオンライン上映にて観賞。2020年ポルトガル・イギリス制作、アナ・ロッカ・デ・スーザ監督。

映画はごく普通の朝に始まるが、まずロンドンに暮らすこのポルトガル人一家が困窮していることが見えてくる。ゼロ時間契約で貯木場で働く夫と、乳飲み子と共に出勤して家政婦として働く妻。この映画でしっかり捉えられる彼らと関わる市井の人々の顔はどれも穏やかで、困っているなら役に立とうと出来るだけのことをする人も多いが、ステージが違いすぎて全く手が届いていない。だから専門的な「公助」が必要なのだ…って今のうちらと同じである。「今の」じゃなく昔の私が気付いていなかっただけか。

母ベラが乳母車でその日のための食料を万引きする間、段ボールを敷いて待たされている小学生ルシアと乳飲み子ジェシーは近くの住民に心配される。ルシアの補聴器が壊れるが新調するお金は無い。そのことから生じた学校での行き違いにより、夕方にはソーシャルサービスの職員らが三人の子を緊急保護命令でもって家から連れて行く。作中繰り返される「落ち着いて」、ベラは組織の職員からも、支援する人からも、更には組織の「許可」を得て穏当に子と面会したい夫からもこれを言われる、こんな、落ち着いてなんかいられない時に。何もかもが不利なのだ、大方はやればやるほど。

「English Only」とポルトガル語はおろか手話さえ禁止される子どもとの面会に、この国のソーシャルサービスは一体何なんだと思われてくる。映画の終わりにベラは「システムを知っていながらそこで働くのは罪」との言葉を吐くが、一家を秘密裡に支援するのは元職員である。彼女によると、この国のソーシャルサービスは自立支援計画を早々に打ち切り子どもを養子縁組の候補に入れてしまうのだと言う。彼女はこうした支援を受けていること等をSNSに投稿すると逮捕されるからやらないよう注意するが、かりにそれが事実だとしたら、このような話は法に訴えでもしない限り表には出ないわけで、映画が作られた経緯は分からないけれど見てよかったと思った。