CLASH クラッシュ/The Rebel 反逆者



ベトナム映画祭にて、時間の合った、ジョニー・グエンとゴ・タイン・バン(「最後のジェダイ」のローズの姉役)共演の二作を観賞。川に遺灰を撒く場面があるという共通点に(殺し殺される話だからそうなるか、ともあれ)ベトナムを感じた。


▼「CLASH クラッシュ」(2009)は裏組織の殺し屋「フェニックス」(バン)とその仲間「タイガー」(グエン)の物語。下まぶたにずっと黒を入れているバンの悲痛な表情を一時間半見続けるのにはかなりの忍耐を要した。死体を事も無げに蹴落とし高所から撃ちまくる際の顔はよかった。時折挿入される川や雲の流れが大変に速いのが印象的。


オープニング、バンから降りてきた女のうなじに入れ墨が…となれば今や「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を思い出さずにはいられないが、その母娘はモノのまま死ぬ。入れ墨は「業」と読め、ベトナムの漢字文化を思う。その後のオープニングクレジットの街並みにはパナソニックを始めとする日本企業の名前がばんばん映り、ベトナムの若者がこちらに来ようと考えるのも無理はないのかと思う(しかし手首を拘束するのはアメリカ映画でお馴染みのアレ)。


白スーツのボス「ブラックドラゴン」いわく「駒は盤の中に存在するのみ」。娘を人質に取られたフェニックスは自分と娘の解放を条件に最後の大仕事に奔走する。そうしたどうしようもないことをこそ描くのが映画と分かっちゃいるけれど、Fury Roadを想起してしまう今となっては、え〜仕事するの?ちゃんと?ともどかしく感じられた。外から見れば、いつもながらの悪事の歯車の二つが実は意思を持っていたという話である。


▼「The Rebel 反逆者」(2007)は1920年代の仏領インドシナを舞台にフランス政府の工作員クォン(グエン)とレジスタンスのトゥイー(バン)が支配から逃げ続ける物語。これは面白かった。「クラッシュ」ではしじゅう悲痛ぶっていたバンもこちらでは色々な顔を見せてくれる。身一つで助けられた女がシャワーシーンでその裸を見せれば、男は自身の写真や日記などを見られるがままにする。そういう機微はある映画だ。


「クラッシュ」では「ホワイトタイガー」を名乗りながら黒い服を着ていたグエンが、本作では「フランス帰りのエリート」として白いスーツで登場し、同胞の血を浴びてそれを脱ぎ「ベトナム人」となる。冒頭、髪型と服装が宮本浩次を思い出させてしまうこれも仏政府の手先のシーに痛めつけられたトゥイーが「女を拷問するのは臆病者だ」と口にするが、この映画はそれからずっと、クォンが自分は臆病者でないと示し続ける話とも言える。彼と闘う「ラスボス」がシーであることから、臆病でない者が臆病な者に勝つ話でもある。


クォン、トゥイー、シーの三人ともが不在の母親に取り憑かれている。クォンはアヘン窟の父親に「母さんに償いをするのは俺じゃなく悲しませたお前だ」と言い放ち、トゥイーは「私の母の死ほど悲しい死はない」と語る。対して二人の父は息子の敬意の対象、あるいは「国の大義」として体を持ち存在する。このような事態では母親、いや女から先に存在できなくなるのだとも言える。とはいえ、事実という大枠から外れることは出来ない歴史ものにおいて「大義」とその娘が生き残り殺された人々を弔うラストには、映画ならではの表現を確かに見た。