白鯨との闘い



こちらも公開初日に観賞。酔いやすいくせに3D版の前から二列目なんて席を取ってしまい直前になって心配するも、嵐のシーンなど多かったのに全然大丈夫で嬉しかった。もうまず、それが大事、それだけでいい映画(笑)


ベン・ウィショー繋がりで言えば、といっても役柄も演技も違うけど、「パディントン」が「体が着いても心が着くまでには時間が掛かる」こともあると教えてくれる話なら、本作は「体は救われても心は救われない」こともあると教えてくれる、でもってそういう人間が救われる話である。ウィショー演じるメルヴィルいわく「悪魔は語られない秘密を好む」。


オープニング、「スター・ウォーズ」(の上下反転したカタチ/みたいに見えるよね、今は・笑)を思わせる鯨の登場に続いてタイトル。思えば水、いや水中と3D映像とは相性がいいのだった、ジュネの「天才スピヴェット」だってエンドクレジットの桶の中の水が一番楽しかったんだから。その「楽しさ」が映画に必要か否かはさておき、水中が映るとスクリーンの向こうとこちらが繋がっているようで、泳いでくるクリヘムの手を引っ張りたくなった(笑)でも一番ぐっときたのは、鯨の群れにボート達が向かっていく遠景。海上戦の始まりのように見えて、人間同士のそれとは違い、「向こう」にはその気がない、少なくとも得体が知れない。何とも言えず面白かった。


これもまた、私の好きな「誰かが語っている」形式の映画である。「ただ一人の生き残り」であるトマス(ブレンダン・グリーンソン)の話は、例によって(「これが真実なのだ」という前置きがあるも)彼の知る由も無い、出航前のチェイスクリス・ヘムズワース)夫妻の場面に始まる。繰り返されてきたであろう、何てことのない、「俺には捕鯨しかない」「ごめんなさい、船乗りの妻なのに」というやりとりの様子がいい。


この映画はお金の話に始まりお金の話に終わる。全財産を賭けるメルヴィル、トマスが受け取らないのを見てそれぞれをとりなす妻、場面替わってチェイス夫妻の齟齬のある会話、職場に赴いたチェイスが遭遇する光景…といった冒頭を見て、私は、この映画は「お金」を切実なものとして描きたいのだと受け取った。最後にトマスの妻が(二人の男の間で宙に浮いたお金について)「これは『酔っていない』私が受け取っておく」と言うのが面白い。そして映画は「土の中から石油が見つかったそうだ」という新たな「夜明け」で終わるのだ。