SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021のオンライン上映で見た映画の記録。

▼宴の日(2020年韓国/キム・ロッキョン監督)

キム・ギョンマン(ハジュン)はイベントMCの仕事と白塗り顔をごしごし落としての父の介護と二つの場を行き来していたが、父が亡くなり葬儀の日にもお金のために真っ白な衣装で傘寿祝いに向かうことになる。譲ったのは妻が出産間近の先輩。おめでたいことと悲しいこととは表裏、くるくる地続き。だけど人生のどこにだって大事なことがあるんじゃないかという話である。

全ては地続きといっても、ギョンマンと学生の妹キム・ギョンミ(ソ・ジュヨン)が喪主を務める葬儀と、もう一つの、濃い地縁の中での葬儀は対照的である。若い二人はスタッフに頼り、とにかく安い商品を選ぶ。式場に一人残ったギョンミは叔母達から、弔問客が「お辞儀」している間はアイゴーと言い続けなければならない、しかし泣きはせず宴のように賑やかにしなければならないなどと教えられる(ほぼその手本が、もう一方の葬儀の場面に見られる)。しかし、知っていたらあんなふうに「ちゃんと」出来るものだろうか。「お線香の火を絶やさないのは死者が迷わず成仏できるよう道を照らすため」と聞いた妹は、兄の留守の間はとわざとその火を消してしまうのだ。「家長はお父さんだけ」と言っていた彼女は、父の顔を拭いた兄を今後は家長とみなすのだろうか。今の彼らの在り様は若さゆえなのか、これから先人達と同じ道を辿るのか、何かそんなことを考えてしまう映画だった。

▼ルッツ(2021年マルタ/アレックス・カミレーリ監督)

ジェスマーク(ジェスマーク・シクルーナ、実際に現地の漁師さんなんだそう)はマルタ島から離れず先祖代々の漁船ルッツで地道に魚を捕ってきたが、生まれたばかりの子が「発育不全」と診断され、その対処にお金がかかるというのでこれまで目をやることもなかった社会のいわば闇の部分へ足を踏み入れることになる。おりしも穴が空いたルッツにはしばらく乗れなくなる。

映画が進むにつれ、ジェスマークは「生活できるだけの漁をしていた」わけではなく、夫婦と子の暮らしが実際には成り立っていなかったと分かってくる。妻は愛する人に好きなことをやらせるため、好きでもない親戚に紹介してもらった興味もない仕事に就いたのだ。これは「発育不全」の子を「平均値」にするためには昔ながらのやり方ではもう立ち行かない、昔のままでは「普通」になれないという話なのである。妻の「漁師を続けていられるのは皆のおかげ」が見ている私の胸にも突き刺さる。そしてその世界の末端に、レストランや魚屋の客…だから遠く離れているけれどうちらもいるのだ。

▼国境を越えてキスをして!(2020年ドイツ/シレル・ぺレグ監督)

イスラエル人女性のシーラとドイツ人女性のマリア、愛し合う二人のロマコメながら試練の元が「レズビアン、ショア、結婚」(に加えて「どこへ行ってもあなたの元カノばかり!」)、お話はあってないようなものだけど、それらに絡む会話の膨らみを見る一作。「高校生の頃は気楽だったけど…」とのシーラのセリフには、主人公をその年代にした作品の数々を思い出す。

マリアが「先祖は代々土地を耕してきた唯のドイツ人」と言おうと、シーラが「悲劇のサバイバーじゃなく私の祖母」と言う当の本人にとっては「アドルフとエヴァの民族」。母には「あなたの祖父母は戦時中に何をしていたの」と言われる。その気持ちを無視しない、でも大事なものもある、そもそも「愛は厄介なもの」なのだとこの映画は言う。そこに到達するしかないのが、実は内容を表しているのかもしれない。

▼野鳥観察員(2020年オランダ/テレース・アナ監督)

孤島で一人、45年ものあいだ野鳥観察員として暮らしてきた男が職務廃止の決定を受ける。骨折しても本を参考に手近な物で治療するし、20年前にノートに記した内容も覚えている、海辺の小屋はまさに彼自身。だからそれを解体するよう命じられ困惑する。ルーティンを通じて自分が何らかの組織の一員のように感じていたのが、実は全然別の、人間社会という巨大な組織の一員であり、自身の状況が自身の意思でどうにかなるものではないと思い知らされ、抵抗を試みる。

彼は漂流者ではないから、流れて来たボールを、友達じゃなくサッカーの道具にする。しかし鳥が運んできた金髪のウィッグにより、人間、というか女性への渇望が呼び覚まされてしまう。それは何となく抱いている、女性という概念への憧れである。しかし人間社会どころか更に大きな力…台風により、彼は「鳥」に乗ってやって来た若い女性と遭遇することになる。それは彼の思い描いていたのとは正反対の女性、というか人間で、ダンスも何もかも思い描いていたようなものではなかった。でも現実であり、彼はその出会いによって救われた(最初は豆の缶詰を、鳥にするように渡していたのに!)。終盤のこの展開は私には意外なもので、かなり面白かった。