白頭山大噴火


さしずめ「腰抜けハ・ジョンウの大冒険」。除隊一日前に引っ張り出された「民間人」の彼が、アメリカも中国もこっから出てけ、朝鮮が壊れちまうだろ!と叫ぶ。「感傷的だからこそ工作員になった」イ・ビョンホンはそんな彼だけは信じられると言うのだった。

体制のために動いてきたが今は娘と国を出ることだけを願っている工作員リ・ジュンピョン(イ・ビョンホン)と、家族のために仕方なく来たが自分に大役が務まるかとの疑念が湧いてきた大尉チョ・インチャン(ハ・ジョンウ)の心が分かれ道を前にしてふと接し、おれたちの求めてるものは同じじゃないかと気付く。チョ大尉が持ち歩く超音波写真にリ・ジュンピョンが自身の「保険」を吐き出したあれは、家族と国…北と南、いずれの国も…は表と裏、同じなのだと訴える素晴らしい小道具だった(結局使えなくなるわけだけども)。

この映画は、あの超音波写真が象徴している、一般的には女のものとされる世界とは真逆の、写真の裏に描かれた地図が表している、一般的には男のものとされる世界をざっと網羅している。今回はこっちを描くけれども、そっちと一体なんですからねというわけだ。更に「そっち」に属する者として、引き出しも開けられないほど非力なマ・ドンソク演じるカン・ボンネ教授(実際の出自と同じ韓国系アメリカ人役)を配しているのがうまい。しかし、あの写真が表すものはやはり「家族」であって、実際にはあの一枚に盛り込まれない世界がある。例えば「82年生まれ、キム・ジヨン」を始めとして去年から今年にかけて日本でも公開されてきた女性監督による映画の数々に在った世界である。あれらに描かれていたのは家族のようで実は個なのだから。

映画が始まって数分で、白頭山の噴火により4.25文化会館が崩壊。非核化宣言の仕上げをせんと北へ向かっているアメリカに先回りして核弾頭を盗み、爆破してマグマの圧力を逃そうという作戦が実行される(「盗む」とあっさり口にするのは民政首席役のチョン・ヘジン)。非核化の完了にこだわるアメリカに対し、大統領(チェ・グァンイル)いわく「(朝鮮半島の半分が崩れようとしているのに)黙って見てろと言うのか」。実のところアメリカは避難に際し「アメリカ人が先、アメリカが認めた韓国人は後」とやっているのだから。一方でチョ大尉が瀕死のアメリカ兵を見る場面には、それこそ教授の口から出る「国の運命も決められない政府のせい」の言葉が当てはまる。大きな責任はどこにあるのかと。