ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ベネズエラ


ラテンビート映画祭2020のオンライン配信にて観賞。2020年ベネズエラ・イギリス・ブラジル・オーストリア制作、アナベル・ロドリゲス・リオス監督。

ベネズエラ最大の油田マラカイボ湖に浮かぶ小さな集落、コンゴミラドール。この村の話をしよう…との女の声に続いてギターをつま弾く男と物語る男、タイトルに次いで始まる歌は「破滅の夜が来た」。映画が進んで終盤は、見ていなければならないものを見終えることになる、すなわち映画が終わってしまうのが怖くなる。17か月後、かつて700人だった人口が漁の時期でも半分程に減ったという。1年後、国に見放された村は死ぬ。最後に出る文章は「今はそれぞれの場所にいる、コンゴミラドールの人達へ」。

湖上の暮らしは洗髪髭剃りを水中で、洗濯の汚水も床の割れ目からそのまま流すという具合で体の一部が常に水と繋がっているようだ(そういう場面をよく撮っているんだろうけど)。水が汚れたら自分達だって汚れてしまう。翻って私達はどうか。使った水をよそへ捨てているから汚れずに生きていられるだけだ(インフラの話じゃなく比喩としても)。「栄光」やら「勝利」やら勇ましい言葉の躍る国のトップの声に映る、堆積した泥、死んだ魚、寂れた家屋。

映画の作り手がメインキャストに選んだ女性のうち大人達は、共同体に属していながら私にはどちらも「一人」に見えた。「革命さえあれば」とチャベスへの愛…と「保険」の札束に生きている村のまとめ役タマラは常に進行方向を向いて船に乗る。彼女とその一派により追い出されそうになっている小学校の教師ナタリは学校運営費のために子どもらと貝を集めて色を塗る。教室に保安官を呼んでの一幕からは、気がはやって授業どころじゃないのが伝わってくる。「ハンモックを揺らすにも色々ある」といったところか。

そして小学生のジョアイニ。美少女コンテストの会場に流れるBlack Eyed Peas「The Time」が悲しくも奇妙にリアル。「やる気がない」と言われる彼女だけども、やる気がないんじゃなくやることがない、やる気の向かうところがないんじゃないかと考えた。踊っていたら「踊ってないで働け」なんて(大人の影響を受けた)兄弟に言われてしまうんだから。あの歳で、選挙がお金で動いていることも知っている。最後に妙に大人びたその顔に、これはドキュメンタリーなんだと思う。