最近見たもの


▼また、あなたとブッククラブで

オープニングは仲間を紹介するダイアン・キートンのナレーション、最初のジェーン・フォンダの登場カットに気持ちがあがる。「お金持ち」で「男女の恋愛をよきものとする」四人の話だけども、アンディ・ガルシアの「君のファーストキスの相手は男?女?」など突然目配せが入ってくる。魅力ある映画だけど薬のくだりはダメだろう、男女反転の冗談とも取れないし…と思ったら2018年の作品なのか。二年間の変化は大きい。

女四人がめいめいの椅子、二つは組で(夫婦の暮らす家だから)あとは違うやつに思い思いに座って話し合う冒頭に引き込まれる。18年もセックスなしだなんて!(「そんな映画があったっけ」「洞窟のやつでしょ」が笑える)あんたには感情はないの?なんてやりとりに全く棘がないのは、ダイアンの言う「You know, we love you」が根底にあるから。四人は本心しか口にしない。正確には「自分に嘘をつく」ことはあっても仲間には絶対にごまかしたり見栄を張ったりしない。だからさくさく事が進む。彼女達が「恵まれている」からというのもあるのかもしれないけど。

迎えに来たガルシアと出掛けるダイアンを見送りながらの仲間の「前のデートでは妊娠したけど今度はもうない」とはうまいセリフ(若くして妊娠、出産してから生理を終えた今までデートをしていないということ)。この映画で最も印象に残るのは彼女の娘達からの自立。相手が年を取ったからといってこれがよかれあれがよかれと押し付けないでほしい、それがテーマに思われた。


ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢

「はじまりのうた」では最後のアダム・レヴィーンの歌声に音楽ってそういうものだから!とねじ伏せられたものだけど、こちらは最初にどかんとトレイシー・エリス・ロスの声の良さとダコタ・ジョンソンが「噛んだ」時の更なる良さをぶつけてきて二時間説得力を持続させる。え~っ!というドタバタからの収束には、昔ああいう感じで終わる少女漫画をよく読んだなと思う。悪くない。

友達じゃない女二人のやりとりがいい映画が好きだ。レコード会社での会議の後のトイレの場面にふと、そもそもトイレで会えるのは「女」だからなんだよね、やっぱり女同士だよね、などと呑気に思っていたら二人の間に大きな差があることを思い知らされる。

監督ニーシャ・ガナトラの前作は、大物コメディアンのエマ・トンプソンの元で働くライターを自分で演じるのにミンディ・カリングが脚本を書いた「レイトナイト 私の素敵なボス」。この二本、それぞれスタンダップを、音楽をちゃんと描いているところは同じだけども、それ以外の見どころはかなり違う。エマ・トンプソンが「白人男性としか仕事しない」のは自身の地位を守るためであり(皆彼女を普通にリスペクトしている)、本作のトレイシー・エリス・ロスが「男性としか仕事をしたことがない」というのは全然意味が異なる。先のトイレの場面はそれに触れる重要な箇所だった。


▼ニューヨーク 親切なロシア料理店

「誰の一番でもない」でも大丈夫、という話じゃないんだと残念に思うも嫌いになれない映画だった。「空室があるのに、掃除もベッドメイクもして帰るのに」「私がクビになる」(対比の「私のオフィスで寝て行って」)などセリフの数々がいい。

ロシア料理店のオーナー役のビル・ナイが自分の「ロシア訛り」について語るのに、何年か分を貯めておいたような、ひきつけみたいな作中唯一の笑いをゾーイ・カザンはするのだった。店の奥にひそむこのビル・ナイはどこか妖精めいており、「スタートアップ!」のマ・ドンソクに通じるところがある。尤もこちらが売っているのは「異国情緒」であり、彼は料理もしないけれど。でも「いつでもどこでも同じ味の缶詰」は原題「The Kindness of Strangers」とどこか繋がるように私には思われた。

「自分の持ち物はない、元々ここにあったものだけ」のタハール・ラヒムの部屋にぽっと温かく灯るりんご。携帯電話を持っていない親子にはやはりこれが命綱となるのだった。


▼ハッピー・オールド・イヤー

やけに展開が早いなと思いながら見ていたものだけど、「そういう話」じゃなく「こういう話」なのだと最後にやっと分かった。人と関わりながら生きてく限り避けられないものを知るという話。チュティモン・ジョンジャルーンスックジンの顔を長々捉えたラストカットに、日本でリメイクすればいいのに、誰ならいいかなと思ってしまった。

撮影禁止の書店で写真を撮り「来客の車はその辺に停めさせればいい」と言うジーンの「ミニマムな生活」とは、自分で物を持たず他人に持たせておいてそれを使うということ。でも自分のところだけきれいにしておこうったって、やることやってんだから…だって、人と関わりたいんでしょう?それならそうはいかないという話である。

終盤の食卓でジーンと母親がぶつかる場面が素晴らしい。意見のぶつかり合いとはしんどいものだということが何というか物理的に表れているから(簡単なようで案外これを見せる映画はない)。エムの家で彼と女性がスープを口にする時に風が吹いている場面もよかった。私の好きな類の教育テレビの番組の匂いがした。私の好きなそれは、遠くへ出掛けない旅。自分の周りの冒険。そして自分と他人とが違うってことを知るのだ。