ペーパーバード 幸せは翼にのって



「芸人は兵士じゃない、聖域に存在してるんだ」


内戦が終わり、フランコ政権下のスペイン。マドリードでとある劇団が興行を再開しようとしていた。爆撃により妻子を失った喜劇役者ホルヘも1年ぶりに戻ってくる。彼と相方エンリケは芸人志願の孤児ミゲルを引き取り、3人で暮らし始める。劇団は反体制派を弾圧する政府の監視下にあり、内偵者が送り込まれていた。



予告編からは少々苦手な感じを受けてたけど、とても面白かった。はじめ「芸人と政治」のあり方についての物語と受けとめてたけど、最後には「芸人の目を通した」ストレートな反戦映画だなと思った。
独裁政治下を生きる芸人たちを描いた中盤までも面白いし、終盤は怒涛の展開。明かされる意外な事実、その後のサスペンス、ラストの「感動」、どの描き方にも心躍る。しかし今年観た他の映画を顧るに、戦争で苦しんだ人たちを題材にこの手のやり方で感動を味わってしまっていいのかとも思う。


(話がそれるけど、後日「一枚のハガキ」を観たら、描写がシンプルなため人の死などの不幸がギャグに感じられるという、分かりやすく言えばカウリスマキ映画のようなことが起こっており楽しかったので、「ペーパーバード」で大音量のドラマチックな音楽をバックに妻子を亡くす冒頭の場面を想起し、色んな姿勢があるもんだなあと思った)


主人公ホルヘは冒頭のような考えの持ち主で、仲間いわく「怖いもの知らず」。皆の前で総統の物真似をしたり、「総統のニュース映像は感動ものだ」と言われると「銃殺しながら涙でも流すのか?」と返したり。当の上映会では、映写機をいじって面白おかしくしてしまう(ニュースDJとでもいおうか?)。しかし「芸が命!」というわけではないし、「家族」を持つことで変わる部分もある。
仲間にも色んな者がいる。「この年になると選択肢がなくて」と言う痔持ちの花形歌手が、巡業先の村長を歌で落とす場面など、芸人の本領発揮という感じで楽しい。一方そのパーティの隅で、若い女の美しさをただ「観賞」する大尉がいるのも面白い。それから犬も出てくる!


またこれも予告編からは分からなかったけど、本作は男二人が「夫婦」として子どもを持ち家族となる話でもあった。ホルヘの相方エンリケが「同性愛者」であることが、冒頭のカフェで示唆される場面がしっとりしておりいい。前半では、彼が裁縫や料理を得意とする様子が「分かりやすく」挿入される。穏健派の彼は軍人に向かって対等な口を利き自分の意見を述べるホルヘをたしなめ、「家族」でブエノスアイレスに逃れることを提案し続ける。
セックスの介在しない二人は、理想のパートナーだ。ホルヘに「お前の元カレ(という字幕はちょっと合わない気が・笑)たちに怒られるな」と言われたエンリケは「あいつらは愛も友情も知らないさ」と返す。またヤケになるホルヘに「お前を愛してる者だっているんだぞ」とも言う。「誰?」「おれさ」、続けて隣のミゲルも「ぼくもだよ」。


終盤、作中キーとなる人物の「戦争が終わってよかった」という言葉に対し、ホルヘは心情を吐露する。「戦争は終わったが、愛する者を失うと、全てがどうでもよくなる。望みは誰かを殺すか自分が死ぬかだ」。しかしその後、母親と再会する望みを捨てないミゲルに「愛する人はいつも一緒だ」と言う。誰かの存在が生きる理由になることがあるのだ。