高速道路家族


妊娠中のジスク(キム・スルギ)の夫ギウ(チョン・イル)への最後の言葉は「あなたを切り離せば私達はやっていける」、これは家長がクビを切られる話である(ちなみに同じ日に見た『レッド・ロケット』でも主人公は妻に最後に「真実」を言われ追い出されていた)。ごめんなさいごめんなさいと彼女が謝ることも無かろうと見ているこちらは思うわけだが彼は病を持ち仕事で騙され子ども達には愛されており…警察でのふざけた調子での「新自由主義が発達したこの国で迷惑を掛けずにやっていこうとしていたんです」が心に引っ掛かりはする。

私には二組の夫婦の話に思われた。ギウの「学校はつまらなかった」、ジスクの「娘がいじめられないよう守っている」はおそらくどちらも本心で、弱い二人がくっついたのだろう(夫の方は大学まで進んだことで却って学校というものに反感を抱いているように思われる)。一方で中古家具店を営むヨンソン(ラ・ミラン)は自分の気持ちを表すことをせず(その代わりとでもいったふうに亡き息子のためには言葉を尽くす)夫ドファン(ペク・ヒョンジン)は話を聞いたり内心を察するのが下手、こちらもうまくはない組み合わせだ。「本心を言ってくれ」と妻に激昂していたドファンがジスクの生い立ちを聞こうとお茶を出す場面で話が立体的になる。

ヨンソンがまずジスクとギウの子どものうち姉に直接紙幣を、次いで子らを連れすたこら逃げる夫に置いて行かれた妻に手を差し伸べるのには、彼女が一家を救いたいと思う明確な理由が見て取れる。高速道路の休憩所で波風を立てないよう弟の面倒を見ている姉は、弟の抜けた歯を投げながらお決まりの言葉でなく何か祈ったのだろうか。彼女のみがホラーめいた体験をするのはその重責ゆえだろう。幼い二人が自動販売機の下を這いつくばって見つけた小銭でお菓子を買うのと対照的に、周囲の人々があまりに当然のように食べ物にアクセスしている様が印象的だった。