ブランカとギター弾き



公開初日に観賞。そうそう、誰かの頭をあんなふうにさわっていいのはあんなときだけ。あれはきっと、これからもブランカの夢を見られるように、だよね。


「スラム」の中の「ブランカ」が映るオープニングに、悪い意味じゃなく映画っぽくないなと思う。全然決まってない。でもって「ブランカ」は何て言うのかな、よく出来た韓国映画の子役みたい。彼女以外の肉体の本物感が確かに、それこそセルライトまで、見ていて楽しかった。


ラストシーンは「幸福の黄色いハンカチ」かと(笑)…って、馬鹿みたいな感想だけど私としてはあながち馬鹿みたいってだけじゃなく、日本的なセンスに溢れた映画だと思った。途中から「世界名作劇場」みたいだとも思い、ちびっこがハモニカを吹きながら先導したり道すがらポールをぐるりと回ったりするのも、そういうこと、あるかもなと(笑・思えばこの子が名作劇場感を醸し出していたのだ)


ブランカ」というタイトルやクレジットのオレンジが印象的だったものだけど、ここではそれは「優しさ」を意味している。その辺の服屋で買った、シャツの青は「海と空の色」、ドレスのオレンジは「優しい心の色」。オープニングタイトルからして、ブランカは元々持っていた優しさをピーターとの出会いによって引き出され、最後に海と空に迎えられたのだと解釈した。


冒頭の数分で伝わってくるのは、お金で回っている世界にブランカが一人で生きているということである。たまに伸びたのを切っていればあれが楽なんだろうなという髪型や、後ろを縛って着ている大きすぎるキャミソールがよかった(後に出会うセバスチャンも同じような着方をしているので、仲良くなりそうだと予想する・笑)鶏小屋に自分の小屋と同じように開けるハートの穴は、ニワトリだって楽しかろうという彼女の気持ちだ。


登場人物皆が作り手の考えたことを分担して喋っているような映画だなと思ったものだけど、中でもピーターの(「これ、映画だよ?」に対する)「映画も現実も同じ」や(「こんな部屋に暮らせるようにしてくれて、ありがとう」に対する)「運がよければこんなふうにずっと暮らせるよ」なんてセリフには監督の思いを感じた。後者はね、悲しくもあるけどね、運がよければなんて。


面白いのは、ブランカが一人、空のベンチで歌ったり、肌身離さず持っている本を見ながら文字を書いたりといった行動が、彼女の期待した通りには働かないところ。それから、ブランカがセバスチャンを置いてすっと、あるいはピーターの手をすっと、離して去るところ。私としてはあんなふうな、非情がもっと、あってもいいなと思った(それは「優しさ」とは全然両立するものである)


冒頭、ギターの音にブランカが駆け出して行くのがよく分からなかった。後の「この辺の子かい?」からして、ピーターの方がやって来たばかりで初めて出会ったのかなと想像した。こういう類の余計な推測を必要とする映画は好きじゃない。対してブランカの作中初めての歌声が、彼女の人生の初めての歌なのか、昔歌ったことがあるのか、その推測をするのは悪くない。オレンジ色が表す優しさ同様、ピーターとの出会いによって引き出されたパワーなんだと思った。


ブランカとピーターがありつく、ご飯とフライドチキンとスイカにオレンジジュースの食卓が美味しそうだったけど、これは作中唯一の高価な食事で、そういうのは外国人でも「分かる」ものなのだ。もっと土着の、二人がベンチで食べる夕食やおばさんが与える屋台の軽食は、袋に入っていたり包みに入っていたりで何なのか分からなかった。