ロイヤル・コンセルトヘボウ オーケストラがやって来る



映画の日の場内はほぼ満席。上映前に、日本公開に際しての「出演者」(=RCOの団員二人)の挨拶の映像が流れる。開口一番「(昔と違って)今はどの国の人も僕らを生で見られる」と来るので、それならこれから何を見ればいいのかと戸惑うも、それは本作が追った彼らのワールドツアーのことを言っているのであり、この映画の見どころはいわく「大所帯での旅」「楽団の裏側」「世界各地の人々が持つ歴史と自分達の音楽との繋がり」。見てみたら本当にその通りだった。


オープニングは無人のステージ、と思いきやカメラが振られると先の映像に出ていた打楽器奏者のヘルマンがおり、「90分間のうち一度しか出番の無い」ブルックナー交響曲第7番を演奏する時の状況、心況について語ってくれる。これが実に面白く、いわゆる掴みはOKという感じ。終盤にはもう一人のコントラバス奏者のゲルマンが、「自分の一曲」だというショスタコーヴィチ交響曲第10番について、初めて演奏した時いかに、何に感動したかを語ってくれる。カメラのこちら側の監督の「楽しかった」という言葉の通り、これもまた面白い。


バイオリン奏者のカップル?が手を繋いで菓子店を訪れ演奏するバッハ(「二人」で演るのにバッハほどふさわしい音楽ってないと私は思う)、南アフリカのソウェトでの教育プログラムに招待した少女達の通学風景にかぶる「ピーターと狼」など、こんなに素晴らしい曲だったのかと感動した。時折の映像と音楽の「ずれ」には、変なことを言うようだけど、ピアノのペダルを踏む時の「ずれ」の心地よさを思い出した。


ぎっしり集まった皆が体を揺らしながら歌い聴く「アムステルダムの運河に寄せて」(「願いがかなうならずっとアムステルダムに生きたい」)の後に、先のソウェトの少女が「住む場所を選べたら絶対にここには住んでいない」。ロシアのサンクトペテルブルクの老人は「スターリンヒトラーに続けて迫害された、母も妻も亡くなり自分だけが残された、でもこれが私の人生だ」。棚に飾ってあったのを取り出して見せてくれた写真を返す際、母の上に妻のを重ねてしまうのは、もう自分の中に入っているからだろうか。