グランドピアノ 狙われた黒鍵



超くだらないのに、超面白かった!つまりくだらなくはないってことか(笑)
「舞台恐怖症」の「天才」ピアニスト(イライジャ・ウッド)がコンサートに復帰。恩師が遺した名器で演奏を始めると、譜面に謎の人物から「一音でも外したら殺す」との脅迫文が。客席の妻をも「人質」に取られた彼は、ピアノを弾きながら必死に抵抗を続ける。


まずはオープニングタイトルが楽しい。弦楽器のひっかき音+ピアノの低音による王道のスリラーめいた曲をバックに、ピアノの部品と、何やらからくりのあれこれが次々と映し出される。これらが「何」であるかは中盤に分かる(大したことじゃない、それもいい・笑)
最初に映るのは、「なんだか気味の悪いところだな」と作業員に言われる倉庫の内部。ぶつかって落ちて割れた写真立てに映る、運ばれるピアノ、下から煽った、トラックに載せられるピアノ、なかなか凝った映像に不穏な気分が高まる。このあたりからデパルマを思い浮かべてたので、中盤に画面が分かれた時にはにやにやしてしまった(片方にはピアノ、片方には…しかもデパルマよりずっと「流麗」なやり方・笑)。でも別にデパルマぽい映画じゃないの、核が違うから。でもそれでいいの、違う映画だから。


イライジャ演じる主人公が登場してからのめまぐるしいこと。無事に着陸してしまった旅客機から降り、携帯電話で妻とやりとりしながらリムジンに乗り込み、ご丁寧に車の中でも違う用事で、しかも着替えながらまた電話に出る。
コンサートが始まってからは、イライジャの演奏する(時に抜けてあたふたする・笑)曲を「映画音楽」としての、ほぼ「リアルタイム」進行。曲調に合わせたカメラワークや、イライジャと「犯人」のやりとりの「声」の使い方が上手く、息つく暇が無い。謎をばらした後に「犯人」側の視点になると見せかけて「こちら」に戻ってくる、のを音声で表現する箇所なんてどきどきした。
子どもの頃、ピアノのダンパーが動くのを見るのが大好きで、ピアノの先生が弾いてる時など目が吸い寄せられてたものだから、ダンパーが下りる音が聞けたのも嬉しい(笑)他にも演奏者達の息遣いや指揮者の衣擦れなど、ステージ上の色々な音が「拾」われている。


「犯人」役のジョン・キューザックの、幾多の映画に(多くの場合は「結果的に」)貢献してきた、「強烈じゃないけど決して弱くない」存在感がここでも活かされている。そう怖くないけど無視できないという(笑)映画終了20分?10分?を切るまで姿を見せず、予告編の度に、これ、揉み合うか何かして頭がぼさぼさになったカットかな、と思ってた場面が「登場」シーンだったのには笑ってしまった。
全編に渡って彼の声が聴けるのが嬉しい。何てことない声なんだけど、気持ちがいい。つい心をゆだねてしまい、話に置いていかれそうになることしばしば。「お前を男にしてやる」なんて(そういう役だって多いけど、いまだにあまりそぐわない)マッチョめいたことを言うのが可笑しい。
はげても太ってもジョンキューを見ると心躍っちゃう身としては、格闘シーンの手招きには、ぴょんと立ち上がって駆け寄りたくなった(笑)


「恋するリベラーチェ」のマイケル・ダグラスもそうだったけど、本作のイライジャ・ウッドも、ピアノを「弾いて」いる。すなわち、自分でちゃんと鍵盤を叩いている。前にも書いたように、ピアノを「弾く」「演技」ってどういうものだかよく分からない。役者ってすごい。
私は登場人物が楽器を粗末にする映画が大嫌いなんだけど、本作の、まあ粗末にしてるってわけじゃないけど、イライジャとジョンキューの争いの果ての場面(ネタバレ反転→揉み合う二人が落下してきてピアノは大破、ジョンキューはぴくぴくしながら死に到る)には吹き出してしまった。そもそもピアノに全く「生命」感が無いのが見易くていい。他にもコンサートの休憩後にしつこく流れる「携帯電話の電源はお切りください」のアナウンスとか、何かこう、笑ってしまう。「子ども」や「野次馬」等の不気味な見せ方にも関わらず、そもそもこんなにくだらない内容にも関わらず、見終わると世の中そう悪いもんじゃないと思える、憎めない映画だった。