百花園探検部



三遊亭遊雀「幽霊俥」
春風亭一之輔「泳ぎの医者」
 (中入)
林家彦いち「昔の詐欺 第三」
桃月庵白酒「朝友」
 (3/8・自由学園明日館)


明治期に刊行されていた落語・講談の口演速記雑誌「百花園」全240巻!のデジタル復刻版の配信開始を記念して、掲載されている演目の掘り起こし、すなわち活字だけを元にしたネタ下ろしを披露する会。
4人の高座の前後に「ビフォートーク」「アフタートーク」もあれど、ビフォーは皆「何か喋ると(ネタが)頭から零れ落ちそう」と、まとめ役の彦いちの問いに勢いで答えるのみ(笑)アフターでは少々詳しい話が聞けた。最後は彦いち主導の「探検部!おー!」の掛け声でシメ(笑)


遊雀さんは先日行ったというディズニーランドの話から本編へ。この会の前に寄ってきた辺りの「九段の坂」が舞台なので、頭に浮かんで臨場感があった。噺はドリフの「もしも赤ん坊連れのタクシー運転手がいたら…」(でも、あくまでも長さんが主役)って感じ。本人いわく「ほとんど(活字)そのまま」演ったそうだけど、一席目からいきなり、これは埋もれてるのも仕方ないという内容。存命の噺家なら、冒頭の寝息と赤ん坊の泣き声を交互にぶつけてくるあたりなど、昇太のを見たい(私は古典なら何でも昇太のが好きってだけか・笑)
一之輔は珍しい袴姿、「普段と違う格好というだけでも記憶に残ろうと思って」(笑)枕なんて考えてないと言いつつ、サムラゴーチなどの時事ネタから、噺の内容に合わせて人間ドック、一朝師匠の手術話まで会場に笑いの渦を巻き起こす。単なる医者繋がりかもしれないけど「夏の医者」を思い出す一席で、後のトークによると全員がこの噺を演りたいと希望したんだそう(なぜか?よく分からない)。主人公が川に沈められてからがやたら長く、ここんとこはつまんないなあ、怖い場面は鰍沢みたいにあっさりしてるのが好きだなあと思っていたら、後でいわく、このくだりは全て創作なんだそう。


中入後に登場した彦いちは「地味な噺ですから」「その前に少し愉快な話を」。彦いちの枕はやっぱり楽しい。今は亡き?SWAの面々の飲み会で、「漠然としか覚えてない噺を演る」遊びっていうの、そっちこそお金払って見てみたい!(昇太の元犬に、白鳥さんの野ざらし・笑)本編は、後のトークによると、元は男の主人公だったものを「全然好きになれなくて」女に変更したんだそう。といっても本当に「変えただけ」、特に「女」っぽいわけじゃないのがいい。終盤に「柔の達人」による背負い投げ?の型が見られたのも嬉しい(笑)
先に書いた「遊び」が見たいという思いとは逆のことを言う様だけど、この日はつくづく、ネタ下ろしよりも「出来上がった」噺の方がいいと思ってしまった。勿論、落語は「人」を見に行ってるわけだから、好きな人であればネタ下ろしだろうと雑談だろうと楽しいわけだけど(だから「遊び」が見たいと思うわけだけど)。それに落語は客と共に出来てゆくものでもあるから、成熟したものだけを求めるのは贅沢だと思うけど。ともあれ、後のトークで「この会、皆がネタを練れば(この日は二時間のところ)一時間で終わる」と言っていた白酒さんのネタこそ一番面白かった。この日、最も普通の「落語会」との距離が近い高座だと思った。削るところなんて殆ど無いんじゃないかな?流石という感じ。