孤独な暗殺者 スナイパー



「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2015」にて観賞。レダ・カテブ主演というので出向いたら満席で驚いた。座席番号の抽選でポスターを当てた(デザインは公式ページの上部と同じ)


やはり「暗殺者」を扱った、ベッソン製作のランベール・ウィルソン主演(と謳っていたけど実際はジャック・ガンブランとのダブル主演)「ブラインドマン」みたいな映画を予想していたら、趣がかなり違っており驚いた。分類するなら「サスペンス」でも「ノワール」でもなく「ドラマ」。
冒頭、カテブ演じる主人公ヴィンセントの家庭の食卓にて、娘が魚にケチャップをかけたがると、リュディビーヌ・サニエ演じる妻がレモンで食べるよう言う、ヴィンセントの父親が「何てつまらない家だ!」と叫んで席を立つ。この場面で、この映画は主人公含め誰の肩を持つだろうと考えても答えは出ず。徹頭徹尾、何がいいとか悪いとか判断する素振りを見せない。クールだけども、この後、娘ともども義父から性的嫌がらせを受けた妻が家を出たことを責められるのには釈然としない気持ちが残った。


二度目の依頼を全う出来なかったヴィンセントは、大会を控えていながら気もそぞろなことにつき声を掛けてくる射撃場のオーナー?に向かって怒鳴ってしまう。この場面でふと、ああこれは邦題の通りなのだと思う(ちなみに原題は「La resistance de l'air」=「空気抵抗」、冒頭彼が語る射撃上達のコツにまつわる)。ヴィンセントはあんなにも色んな人に囲まれながらこれまで誰ともコミュニケーションが取れておらず、そのことが諸々の切っ掛けで浮かび上がってきているのだと思う。それでも嫌われているわけではない、というのが取り返しの付かなくなった後に分かってくるのが面白い。
しかし深く考える間も無く、三度目の依頼による作中唯一の銃撃戦に突入。尤も「射撃チャンピオン」のヴィンセントはマフィアなんて目じゃないほど射撃が上手いので、初「現場」にもはらはらしないけど(笑)


途中、やはりシネマカリテで見た「Looking for Johnny ジョニー・サンダースの軌跡」(感想)に出てきた、ジョニーが娘の誕生時に口にしたという「やっと俺を捨てない女ができた」なんて最高に気持ち悪い言葉を思い出してしまった(「彼は魅力で人生を乗りきった」と言われていたけど本当にそう、あの顔じゃなかったら誰かにしばかれてるよ・笑)本作の周囲とうまくコミュニケーションできないヴィンセントも、まだ幼い娘にだけは無条件で好かれているから。
ヴィンセントが射的屋で見事な腕前を見せぬいぐるみを取り、娘がパパ素敵!と喜ぶ場面を見てふと、結局のところ、私だって映画で銃をうまく撃つ男性を性的にかっこいいと思うのは、「反社会的」な行為だからなんだろうか?などと考えた。


映画において「演技」をする演技、二重演技とでもいうのを見るのは楽しい。達者な役者なら尚更、役柄によってどういう「演技」をしてくれるのか期待が高まる。「ハンガー・ゲーム」(感想)のジェニファー・ローレンスの分かりやすい、役柄通り「下手」な演技も味わい深かったけど、本作のレダ・カテブの「演技」は、作品の語り口に合ったリアルなもの。「こういう状況になったらこうするんだ」と言われての「練習」場面、初めて人前で演技をする場面、そして(その状況にあっても)演技をしない場面、とバリエーション豊かなのも見応えがあった。