アクシデント



武蔵野館にて公開初日に観賞。面白かった。ソイ・チェン監督、ジョニー・トー製作。


事前に当館でも上映予定の「ゴーストライター」(感想)の予告が流れたんだけど、どうってことない話(だけど主人公にとっては大した話)を面白く観せてくれるという点では、ちょこっと似てるんじゃないかと思った。映画の醍醐味って、そういうところにこそ感じる。


とある「事故」の短い映像に続いて、「事故に見せかけた殺し」のプロ集団の仕事を描いた冒頭がまず面白い。ピタゴラスイッチ的というか、メンバーであるブレイン、おやじ、デブ、女の4人も歯車の一つとなってターゲットの息の根を止める。確認してその場を去るブレイン、ルイス・クーの様子もいい。
冒頭に示されるのは「本番」だけど、中盤では、事故を起こすのに必要な「雨」を待って準備と待機を繰り返す様子が何日分も描かれる。焦らされての「本番」とその後の意外な展開は、息もつかせない。
またブレインが一度だけ行う、その場にあるものを使っての咄嗟の殺しも面白い。


ルイス・クーって、それほど色んな役柄を見てきたわけじゃないけど、今、何をやらせても最もはまる役者の一人じゃないかと思う。妙味ってんじゃないけどしっくりくる感じ。美形なので見ていて気持ちいいし。
彼が演じる暗殺集団のリーダーは「アジョシ」「的」な過去を持つ、「殺し」のプロ。しかし事故に見せかけるという仕事なので、肉体的に優れているわけじゃない。終盤、部屋の中で「影」におびえてどうすることもできない場面など面白い。


クライマックス、登場人物にも、観ている側にも予想できない「あること」が啓示のように起こる。それを受けてブレインは、疑っていた男が他人に耳打ちしていた話の内容まで「分かって」しまう。分かるわけないんだから妙な場面だけど、そのトンデモすれすれの味わいが、この作品のキモだ。


暗く猥雑な香港の街も主役といってよく、何てこと無いビルの階段や駐車場が怖くてしょうがない。観ている間は、決して行くまいと思う(笑)
それからビデオテープやタバコの空箱で作った街角の模型で殺人計画を練る場面が、ジオラマ好きの私にはたまらなかった。
食事シーンについては、バスの中で(!)ラム・シューが(!)ルイス・クーからもらったパンを(!)食べるというのが、それだけで楽しい。ラム・シューが自転車のカゴに菜っ葉を入れて走る画もいい。って、いずれも「楽しい」シーンじゃないけど。