イップ・マン



公開二日目、新宿武蔵野館にて観賞。お昼前の回はほぼ満席、数名除いて全て男性客。写真はロビーに展示中の「木人」。


ドニー・イェンのカンフーもの」程度の情報で観に行ったので、始まってすぐ、続編であることに気付いて不安になる。しかし支障はなく、最高に面白かった。ブルース・リーの師匠としても名高い詠春拳の達人、葉問(イップ・マン)の伝記物語。


全体的に、年始の特別ドラマのような雰囲気。悪い意味じゃなく、「オーソドックス」で「ゴージャス」、そして「国民的」。悪役イギリス人の描き方など「絵に描いたよう」だけど、しょうがないと思える。
日本軍統治下の広東省から香港へ移住してきた葉問一家、道場を開くもなかなか上手くいかない。第一の盛り上がりは「魚市場」でのアクション。楽しいけど、このあたりではまだ、血気盛んな弟子によるトラブルに、ドニーが口角上げつつ困ってるだけの話に思える。
前半の見せ場、ドニーとサモ・ハン・キンポーとの対決から空気が変わってくる。「ラスボス」のサモハンが立ち上がるシーンに、劇場では近年一番ってくらい体温が上昇。円卓に飛び乗ったサモハンの横顔は、驚いたことに、とても凛々しく美しく見えた。
以降のアクションシーンが面白いのは、アクションそのものは勿論だけど、その裏に濃厚なドラマがあるから。サモハン演じる香港武術界のドンの苦悩、イギリス植民地下での東洋人の立場、「20年後には弟子のお前が俺を倒す」「戦うのは争わないため」という葉問の教え。そうした下地が油となって、余計に心が燃える。



昨年「小さな村の小さなダンサー」を観た際(感想)、「ダンサーが出演している映画はミュージカルに見える瞬間がある」と気付いたのをふと思い出した。本作も「演技」とは違う形で肉体を使うプロが大勢出てるから、アクションシーン以外も目を凝らしたくなる。立ち姿、走る姿など。
ドニーが脚をすっと組み、お茶とタバコを脇に弟子たちの練習を見てる様子もいい。ワンシーンだけ挿入されるベッド(で夫婦で眠りにつく)シーンが、エロくて効いている。最後に家族に会いに階段を駆け下りる姿は、拳法家らしからぬ?可愛らしさ(笑)


ボクシングの試合のラウンドガールがアジア人だったのが気になった。実際そういうこともあったのかな?この映画が男の世界なら、女の世界はまた別にある。


観賞後、同居人が「そういや昨日の『グリーン・ホーネット』では、カトーにハングリー精神が感じられなかったのが不満」というようなことを口にした。私の場合、「娯楽作」における描写って実世界にフィードバックするような気がするから、実際どうであれ、何でも気楽な方がいい。でも確かに、「西洋人に虐げられながら誇りを貫く東洋人」を描いた「イップ・マン」を観た後、ブルース・リーの「挑発」ポーズを無邪気に真似て遊ぶジェイ・チョウの姿を思い出すと面白い。