エリックを探して



「一番美しい思い出が時に一番辛い、それが人生だ」



予告編見かけるたびにケン・ローチぽくないと思ってたけど、観てみたらやっぱりそうだった。こんなにハッピーなコメディを撮るなんて、何だか感慨深い。
ふとカウリスマキの言葉を思い出した。「映画監督は何かを目指して、同じような作品を幾つも幾つも作る」(手元に本がないのでうろ覚え)。でも、そういう時期もあれば、そうじゃない時期もあるんだろう。実際アキの映画も色々変わったし。


勿論、一見してケン・ローチぽい所もたくさんある。終盤、主人公の家の台所での「実は…」「たまには思い切って頼ってみてもいいのよ」「いや、やっぱりやめとく」という会話、何気ない場面なんだけど、すれ違いの怖さというか、大げさだけど凄みのようなものを感じた。実際その後、作中随一のショッキングなシーンが訪れるんだけど。


主人公のエリックには「仲間」が大勢いる。見たことのない(映画出演のない?)「イイ顔」のおっさんたちが、カメラの前にうじゃうじゃ現れる。
サッカー好きな彼らが試合を観るのは、近所のバー。「サッカー場には高級車ばかり」「有料放送なんてくそくらえ」などの会話から、「庶民」の暮らしぶりや、彼らがポリシーを持ってスポーツに接していることが分かる。主人公の家には車が一台しかないから、肝心な時には自転車使うか借りるかしなきゃいけない。また始めのうち、息子二人は家でテレビばかり観ている。「貧乏人」にはテレビが必須、というあたり「フローズン・リバー」を思い出した。もっとも「エリック」の登場人物たちはテレビを無くすことで幸せになるが、「フローズン・リバー」ではテレビがちょっとした幸せの象徴でもある。「エリック」のほうがファンタジーってことかな。


エンディングに流れるニュース映像?がいい。作中の主人公の言葉とも掛かってるし、エリック・カントナって私は知らなかったけど、ああいうこと言う、へんなおじさんだってのが分かる(笑)