ゲゲゲの女房



ドラマ版は未見。映画版では布枝に吹石一恵、茂に宮藤官九郎
宣伝での水木しげるのコメントじゃないけど、なかなか面白かった。漫画に描かれた絵が動き出すシーンは、実写映画内のアニメーションとしては屈指じゃないかな?


舞台は昭和30年代だけど、都会でのロケにおいては、CG処理などせず背景をそのままにしている。冒頭、高層ビルを背に工事中の東京駅が映った時はわざとらしく不自然に感じたけど、中盤、調布のパルコの前に金内さん(村上淳)が立ってるシーンで、へんな言い方だけど不意に「分かった」。北島マヤが体育館で「女海賊ビアンカ」を演るのと同じ…ってちょっと違う気もするけど(笑)大事なものさえあれば、物語は「見える」んだって。
その晩、茂は布枝との会話の中で「人は目に見えないものを信じない」と口にする。ああこれかと思った。茂の母の「いかる」だって、今すぐ東京に飛んで行って嫁にあれこれ言いたいことだろう、だから、目に見えずともそこに「居る」んだ。


茂が作中唯一声を荒げて「『おれたち』の暮らしのことが、お前らなんかに分かるもんか!」、作中一番の大笑いをして「餓死するやつがいるなんて」…飄々として気持ちの読めない彼の、数少ない「感情的」なセリフが印象的。夫婦の歌声に、二階の金内さんがおもちゃのピアノを弾きながら涙するカットの長さも心に沁みた。強者は出てこない、弱者たちの物語なのだ。


上記の調布駅でのシーンにて、金内さん「似顔絵いかがですか/そっくりの似顔絵いかがですか」。うまく言えないけど、このセリフの「貸本」ぽさ。全編に散りばめられた、この「貸本」ぽさがいい味付けになっている。


「泥棒が入っても取るものがない」とはまさにこういうことを言うんだろうなあ、という感じの生活は、私には楽しそうに見えた。「見合いから5日」で結婚した相手の家で暮らすなんて、さながら冒険だ(米屋の来訪に慌てて印鑑を探すシーンが面白い)。まあ「プレイ」としてだから、実際そうなったら一日で逃げ出しそうだけど(笑)